都市BIMと生成AIを活用したデジタルツインバース「T-TwinVerse」を開発
2024年6月26日
大成建設株式会社
大成建設株式会社(社長:相川善郎)は、「サービス&ソリューションのDX」の一環として、現実空間を仮想空間上に再現するデジタルツインを活用し、2つの空間内のあらゆる情報をリアルタイムに相互連携させることができるデジタルツインバースシステム「T-TwinVerse」を開発しました。本システムは、現実空間と仮想空間の紐づけを可能にした次世代型メタバースといえるもので、多様なステークホルダーが持つ位置、音声、映像などの様々な情報を統合管理し、リアルタイムで高度な情報共有が可能となります。今般、石見銀山地区(島根県大田市)をモデルに、都市のインフラ情報を統合管理する都市BIM※1を組み込み、生成AIを用いてどこからでも自由に様々な情報を登録・参照できる本システムを構築し、地方創生に向けた産官学民の協働による実証実験を開始しました。
近年、限界集落など過疎化の進行に悩む地域が増える中、全国各地には歴史や自然といった貴重な地域資源を有効活用することで地方の活性化を図ろうとする取り組みを進めている地域が多数あります。これらの取り組みを支援する方策の一環として、当社は2022年11月よりDXを利用した地方創生のモデルケースとして、「石見銀山メタバースプロジェクト」を創設しました。同プロジェクトにおいてデジタルツインバースシステムを構築し、異業種間で情報共有を図り新たな価値を創出するための技術実証実験を展開してきました。
今回、当社はこの取り組みの成果をさらに広範囲に波及させるための実証実験として、新たに開発した「T-TwinVerse」を用いて、石見銀山街道の街並み(延長220m)を再現したデジタルツインを構築し、産官学民の共催による様々なワークショップなどを通じ、多様な側面からその効果の検証を進めていきます。(図1参照)
本実証実験は、石見銀山地区の地域活性化を目指し、当社と島根県大田市、島根県立大学および同地区で古民家を保有する石見銀山群言堂グループによる産官学民協働プロジェクトとして実施しています。
「T-TwinVerse」の特長および実証実験の概要は以下のとおりです。
【特長】
本システムは、以下の4つの技術を組み合わせて構築したDXプラットフォームです。
- ①当社保有の測量データと3D点群撮影を組み合わせて作成する高精度3D点群デジタルツインモデル技術※2
- ②上記3D点群モデルから半自動でBIMモデルを生成するAI技術
- ③街区のあらゆる情報を統合管理し、大規模言語モデルLLM※3を活用する街案内LLM
- ④現地・遠隔地の双方向から接続可能なAR※4機能付きインターフェースである「QURIOS(キュリオス)」※5
これらの技術を連携させることで、新築建物だけでなく既存建物、各地域で実施されるプロジェクトやイベントなどの各種情報を有するデジタルツインバースをDXプラットフォーム上で迅速かつ高精度に機能させることが可能となります。
【「T-TwinVerse」による実証実験の概要】(写真1参照)
本実証実験は、石見銀山地区の地域活性化を目指し、当社と島根県大田市、島根県立大学および石見銀山群言堂グループによる産官学民の連携したプロジェクトとして実施しています。
- 1関係人口増加効果検証※8
本システムを用いた観光コンテンツを公開し、関係人口増加に対する効果を検証します。第一弾として、2023年11月19日に東京で行われた「しまね移住フェア2023in東京」の大田市ブースにて、移住希望者にデジタルツインバースを活用し実際に疑似体験してもらいました。 - 2異業種間の情報共有による価値創造
デジタルツインバース上で様々な情報を書き込み、異業種間の情報共有を促進します。街の課題と魅力を発見し、新たなサービスの展開を目指します。 - 3生成AIによる街案内ガイド
過去蓄積された観光情報、文化調査情報をデジタルツイン上に保存した上で、生成AIを用いた街案内ガイドとして展開し、人手不足問題を抱える街案内ガイドの新しいスタイルを提案・検証します。 - 4生成AIを用いた重要伝統的建造物群保存地区(以下、重伝建)※9の修景支援
当社が撮影した街の高精度3D点群モデルを基に、生成AIを用いて重伝建の外観要素を半自動でBIM化します。3D点群モデル書き込み機能を用いた主観的景観評価と組み合わせて、新築、増築、修繕における修景支援とその効果を検証します。併せて全国126か所の重伝建への展開可能性についても検証します。 - 53D点群撮影による手軽なデジタルツインバースの構築
建物の3D点群撮影から精緻な建築BIMを作成させるためには通常約2ヶ月程度を要するところ「T-TwinVerse」では3Dスキャンの点群モデルをそのまま用いており、数週間程度で安価にデジタルツインバースを作成可能となります。3Dスキャンの点群モデルでも、関係人口の増加および、異業種間の情報共有により新たな価値の創造という効果があるか検証します。
写真1 T-TwinVerse上の銀山街道の街並み(点群モデル)(左:3人称視点、 右:巨人の視点)
また、本システムはリニューアル事業や都心部の大規模再開発事業にも活用できます。建物利用者がアバターを使って、建物の竣工前から建物内での空間体験や、購買体験、エンターテイメント体験などが可能となります。これらのアバターの行動記録や、利用者からの意見を取り入れることで、より魅力的な建物づくりに寄与します。
今後、当社ほか関係機関は、石見銀山街道主要部の約1kmに渡る範囲をデジタルツインバースとして展開し、より広域かつ包括的な地方創生のためのDXとして将来的に技術・効果の検証を行ってまいります。
- ※1
デジタルツインバースシステム:
現実空間と紐づかない従来型メタバースではなく、現実空間とデジタルツイン(現実空間を模した仮想空間)とで相互にリアルタイムなコミュニケーションが可能な次世代型メタバース。 - ※2
都市BIM:
都市BIMは、都市のインフラや建築物の形状データに属性情報を組み合わせたデータ(Urban Building Information Modeling)で、都市計画や運営管理などに活用される。 - ※3
「デジタルツインバースシステム」の技術実証実験:
https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2022/221116_9145.html - ※4
高精度3D点群デジタルツインモデル:
T-TwinVerseの点群は、測量情報に基づいた高精度な位置情報および色情報の各種データを基に構成された高精度かつ無数の点群モデル。点描画のような世界観の中で、巨人の視点から街並みを俯瞰することができるため、ユーザーの想像力を掻き立て、繰り返しデジタルツインバースを訪れたくなるような持続的効果が期待できる。 - ※5
LLM:
LLM(Large Language Model)。大規模な自然言語処理モデルのことで、テキスト生成や質問応答などのタスクにおいて人間に近い自然な文を生成することができる。 - ※6
AR:
AR(Augmented Reality)。現実世界に仮想情報を重ね合わせる技術で、視覚的な情報を提供しながらユーザーの体験を拡張する。 - ※7
QURIOS(キュリオス):
株式会社ワントゥーテン/1→10,Incが開発した、現実空間とデジタルツイン空間とが相互作用するミラーワールドや、人間をサポートするAIエージェント等の高度な技術を活用し、あらゆる空間の体験設計を、コンサルティングから開発・実装までワンストップで提供するサービス。
https://www.1-10.com/project/qurios - ※8
関係人口増加効果検証:
アドバイザーとして株式会社昭文社の運営する旅メディア「ことりっぷ」が参画。「ことりっぷ」のユーザーは石見への移住層とも親和性がある20-40代女性が中心。
「関係人口」とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域や地域の人々と多様に関わる人々のことを指します。
(参照:https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/c-gyousei/kankeijinkou.html)
地方圏は、人口減少・高齢化により、地域づくりの担い手不足という課題に直面していますが、地域によっては若者を中心に、変化を生み出す人材が地域に入り始めており、「関係人口」と呼ばれる地域外の人材が地域づくりの担い手となることが期待されています。 - ※9
重要伝統的建造物群保存地区:
城下町、宿場町、門前町など全国各地に残る歴史的な集落・町並みの保存地区「伝統的建造物群保存地区」のうち、特に価値が高いと国が判断した全国126か所の地区。
(参照:https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/hozonchiku/index.html)
- ※DX認定とは「情報処理の促進に関する法律」に基づき、「デジタルガバナンス・コード」の基本的事項に対応する企業を国が認定する制度です。