重量物の吊り下げを可能にする「木質部材用吊材接合金物」を開発
2025年8月6日
大成建設株式会社
大成建設株式会社(社長:相川善郎)は、BXカネシン株式会社(社長:夏目正来)と共同で、CLT(直交集成板)を含む集成材などの木質部材に空調設備や配管などの重量物を安全に吊り下げられる新しい接合金物を開発しました。(図1参照)
本製品は、金物本体に独自の台形形状と、側部より左右斜め45度に傾けた2本のビス(以下、斜めビス)を交差して打ち込むことで木質部材に強固に固定し、空調設備や配管など重量物を吊り下げるボルト等の吊材を容易に接合することができます。この方式の採用により、重量物の自重などによる鉛直方向の引張力だけでなく、地震時に水平方向に生じるせん断力に対しても高い抵抗力を発揮するため、従来よりも安全かつ確実に重量物を吊り下げることが可能となります。

近年、環境に配慮した木造建築のニーズが高まる中、木質部材を利用して設備や配管などを取り付けるような状況が増えています。天井面などの木質部材に吊材を取り付ける際に、従来の金物では、下方から鉛直にビスを打ち込んで吊材を固定していました。(図2参照)この方式は、吊材に作用する鉛直荷重に対してビスの引張抵抗力で対応しており、空調設備や配管などの重量物による鉛直荷重が引張抵抗力を超えるような場合にはビスが抜けて、重量物が吊材とともに落下する可能性があります。このため、日本建築学会の木質構造設計基準・同解説(許容応力度・許容耐力設計編)では、構造耐力上重要な部分において引き抜き方向に抵抗させる使用は原則として避けるべきであるとしています。また、従来の金物は、鉛直方向の引張力が100kg(約1.0kN)程度になると金物本体が変形してしまい、重量物の吊り下げに用いることは困難でした。
これらの課題を解決するため、当社は独自形状の台形側部の左右2カ所から斜めビスを下方から互い違いに打ち込むことにより、引張抵抗力を大幅に増強した木質部材用の吊材接合金物を開発しました。本金物の引張力およびせん断力に対する短期基準接合部耐力※1については、木造建築物の接合部で用いられる試験方法・評価方法※2に基づく各種実験により実証されており、構造性能が明記された安全・安心な製品※3です。
また、本金物は大成建設グループ次世代技術研究所(埼玉県幸手市)に建設中の研究管理棟の木質部材に適用予定です。
本金物の特長は以下のとおりです。(図2、図3参照)
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独自の台形形状と斜めビスを組み合せ、高い剛性と引張抵抗力を実現
金物本体の形状を台形とし、台形側部の対角に位置する2点から留め具となるビスをそれぞれ内側に45度傾けて打ち込む仕様としたことで、ビス同士の間隔が従来品に比べて短くなり、下方に強く引っ張られても高い剛性と引張抵抗力を保持し、変形しにくいという特性を有しています。台形形状の本体を斜めビスで木質部材に固定することで、引張抵抗力が従来の金物と比較して4~5倍(当社比)となり、重量物を安心して吊ることが可能です。 - 2
常時や地震時に金物に作用する鉛直・水平荷重に対して高い抵抗力を発揮
本金物の取り付けに際しては、台形の両側部から2本の斜めビスを下方から互い違いに打ち込むことで木質部材に強固に固定します。こうすることで、金物に作用する荷重を斜めビスの軸方向の引張抵抗力と鉛直方向の曲げ抵抗力に分散させることができ、重量物を吊った場合の鉛直方向の引張力だけでなく、地震などによる水平方向のせん断力に対しても高い抵抗力を発揮します。 - 3
耐火被覆された木質部材にも適用可能
木材を主要構造部材に用いた耐火建築物では、石膏ボードなどによる耐火被覆が必要となります。本金物はビスの長さを調整することで、耐火被覆された木質部材にも取り付けが可能です。耐火被覆された木質部材への適用についても各種実験を実施し、建築物の設計・施工時に参照可能な性能データを取得しています。
今後当社は、木質部材への吊材接合に本金物を積極的に使用し、安全で高品質な木質空間を提供するとともに、二酸化炭素(CO2)を長期間にわたり固定可能な木質部材を多用した環境配慮型建築物の普及展開を推進し、脱炭素社会の実現に貢献してまいります。


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短期基準接合部耐力:
地震や強風など一時的(短期)な荷重に対して、部材が壊れない安全な基準強度のことで、これに耐力低減の要因を評価する係数αを乗じて許容接合部耐力を求める。 - ※2
木造建築物の接合部で用いられる試験方法・評価方法:
木造軸組工法住宅の許容応力度設計改定委員会編:木造軸組工法住宅の許容応力度設計(2017年版) - ※3
基準耐力を満足した安全・安心な製品:
本金物の短期基準引張耐力は標準仕様で2.3kN、短期基準せん断耐力は標準仕様で1.5kN、1時間耐火の耐火性能を持つ木造耐火構造※4の場合には、短期基準引張耐力および短期基準せん断耐力ともに1.5kNであることを確認済。 - ※4
木造耐火構造の仕様:
平成12年建設省告示第1399号による石膏ボードを用いた木造耐火構造の床の例示仕様