リリース

耕作放棄地の水田を畑地化する農地再生の取り組みを開始

-地域資源の循環利用により持続可能な社会の構築に貢献-

2025年5月7日
大成建設株式会社

 大成建設株式会社(社長:相川善郎)は、これまでに蓄積してきた土壌微生物評価に関するバイオ技術や植物栽培等の緑化技術を活用し、耕作放棄地となっている水田を畑地化する農地再生技術の開発に着手しました。さらに本技術を用いて造成した農地において、2024年度より開始している農作物の栽培試験では、枝豆などが初年度から標準的な収穫量を確保できることを確認しました。当社の開発技術を地域で活動する農業法人などに提供することで、地域の様々な資源を循環利用し、持続可能な社会の構築に貢献することが可能となります。

 近年、農業従事者の減少に伴い、耕作放棄地の急速な増加が社会問題となっています。このような状況の中、人々の食生活を支える農業の生産基盤を維持するため、耕作放棄地を含む農地を大規模に集約整備し、新たに農業法人や民間企業を誘致して農業経営の事業化を図る農業団地構想が自治体の主導により各地で計画・実施されています。農業団地の候補地は交通の利便性が比較的高く、大規模農地として集約しやすい低平地に広がる水田が多くを占めており、こうした水田を畑作が可能な農地に切り替えるには、降雨時に畑地が冠水しないよう嵩上げする必要がありました。しかし、既存の水田を大規模に嵩上げして収益性の高い農地として再生する技術はこれまで確立されておらず、農地の造成直後から安定的に農作物を収穫することは非常に難しい状況となっていました。

 そこで当社は、地域資源を循環利用する持続可能な社会の実現を目指し、耕作放棄地となっていた水田を生産性の高い畑地に再生する技術開発への取り組みを開始しました。この中で、水田作土を畑作土として有効活用できることを確認するため、埼玉県羽生市が計画した農業団地「羽生チャレンジファーム※1」内の研究開発農地「イノベーションラボ※2」(株式会社アグリメディア)において、地域の建設現場から発生する土砂により嵩上げして農地を造成しました。造成後の農地では食品廃棄物を堆肥化したリサイクル肥料※3を用いて野菜の栽培実証試験を行い、耕作放棄地となっていた水田を造成初年度から生産性の高い畑地に再生できることを確認しました。

 本技術の特長は以下のとおりです。(図1、写真1参照)

  1. 1

    土壌を最適に改質し生産性の高い畑地へ再生
    低平地の既存水田を造成して農地化した畑地では多くの場合、安定した収穫量を得るまでに数年を要しています。当社が保有する微生物を用いる土壌浄化技術や,緑化植物の栽培に適した土壌を提供する技術などの豊富な実績を活用して、水田土壌を畑作土として使用するために適したリサイクル肥料や排水性を高める方法を選定し、造成直後から安定的な収穫量が得られる収益性の高い農地を提供することを可能にしました。イノベーションラボでの野菜栽培試験結果から、枝豆については初年度から標準的な収穫量を確保できることを確認しており、他の野菜についても収穫量を高めるための土壌の改質や施肥方法に関する情報を収集しました。

  2. 2

    農地再生技術を活用した地域の資源循環サイクルの構築を提案
    農地再生技術は、当社が目指す地域で資源を循環して利用する持続可能な社会づくりに向けた取り組みの一環として開発しています。本技術を地域の資源循環サイクルに組み込むことで、地域で発生する食品などの有機性廃棄物、建設発生土、下水汚泥などを資源として有効活用することができる循環システムの構築が可能となります。再生農地を核に地域由来の様々な資源を循環して利用することで地方創生の実現にもつながる構想として自治体などへの提案を推進します。

 今後当社は、収益性の高い農地への再生技術の提供だけでなく、地域の農作物を扱う食品工場や農業関連の観光施設等の整備を行う「農業の6次産業化※4」を推進する方法などを自治体とともに検討し、当社が保有する様々な技術を総合的に活用することで地域の持続可能な社会づくりに貢献してまいります。

図1 当社が目指す農地における資源循環の取り組みの概念図
図1 当社が目指す農地における資源循環の取り組みの概念図
写真1 羽生チャレンジファームでの農地造成および野菜栽培の実施状況
写真1 羽生チャレンジファームでの農地造成および野菜栽培の実施状況
  1. ※1

    羽生チャレンジファーム:
    埼玉県羽生市が平成30年に計画した農業団地構想であり、2024年12月現在、約24haの計画地の約半分の面積で水田が畑地化され、民間企業が参入して営農を実施している。(株)アグリメディアが民間企業に農地を斡旋する代行業務を羽生市から受託して実施している。

  2. ※2

    イノベーションラボ:
    (株)アグリメディアが羽生チャレンジファーム内に開設した、「人と人、人と技術をつなぐ未来農業・創造プレイス」をコンセプトとして研究開発を行うために造成した農地、①儲かる栽培方式を確立する場、②企業と最先端技術の共同研究を行う場、③高度な農業人材を研修する場、の提供を目的としている。

  3. ※3

    リサイクル肥料:
    食品廃棄物や下水汚泥などの有機性廃棄物を主な原材料として、これらを堆肥化することで製造される肥料のこと。

  4. ※4

    農業の6次産業化:
    農林(1次産業)だけでなく、製造(2次産業)や販売(3次産業)などにも取り組むことで、農産物の付加価値を高め、農業所得の向上を目指す取り組み。