医療施設内における注射薬カートの自律搬送ロボット「PoBOT」を開発
2025年4月18日
大成建設株式会社
大成建設株式会社(社長:相川善郎)は、「サービス・ソリューションのDX」の一環として、THK株式会社(社長:寺町崇史、以下THK:自律搬送ロボット製造・販売)およびサカセ化学工業株式会社(社長:酒井哲夫、以下サカセ:注射薬カート製作・販売)の協力を得て、医療施設内で注射薬の搬送作業を自律的に行うことができる注射薬カート自律搬送ロボット「PoBOT(ポボ)」を開発しました。本ロボットは、市販品の注射薬カートを自動で脱着して自律走行し、集荷や置き配など施設内で無人搬送を行います。これにより、注射薬の搬送作業を大幅に効率化し、医療従事者やスタッフの負担軽減と人員不足緩和に貢献することができます。これまでに複数の病院で試験運用を実施し、ロボットの安全性や走行性、利便性などを検証しており、2026年中の製品化に向けて開発を継続中です。
国内の医療施設では薬剤部門から各病棟へ毎日大量の注射薬の払い出しが行われています。注射薬の施設内搬送には専用の注射薬カートが用いられ、看護師や薬剤師等の医療従事者や搬送専門スタッフが人力で注射薬カートを搬送しています。医療従事者間でのタスクシフトも難しい状況の中、担当者は勤務時間の一部を搬送業務に割り当てる必要が生じるほか、大量の注射薬を積んだカートは総重量が最大150kgにもなるため、身体的にも大きな負担となっています。また搬送業務は日中に行われることが多いことから、エレベータの混雑要因の一つになっており、医療サービス向上の面からも改善が求められていました。
そこで当社は、このような現状を踏まえ、注射薬カートによる搬送業務の効率化に向け、自動集荷や置き配サービスが可能な医療施設用サービスロボットとして「PoBOT(ポボ)」を開発しました。(写真1、2参照)本ロボットの本体にはTHKの自律搬送ロボット「SEED-Mover」を利用し、サカセ製の注射薬カート「ハーモプラスカート・34 3列タイプ」に対応する仕様としており、注射薬カートを自動で把持して自律移動・無人搬送が可能な運用システムを確立しました。これにより、医療施設ではロボット搬送専用カートに買い替えることなく、車輪の交換のみで注射薬カートでの搬送業務をロボットに代替させることができ、短期間・低コストで関連業務の大幅な効率化が実現することができます。


注射薬カート自律搬送ロボット「PoBOT(ポボ)」の運用イメージと特長および製品化に向けたロボット運用実証の概要は以下のとおりです。
【運用イメージ】(写真3、4、図1参照)
- ①薬剤部にて注射薬を収納した注射薬カートを所定位置に配置
- ②設定した時間に本ロボットが自律移動して注射薬カートのピックアップ(集荷)に向かう
- ③本ロボットは注射薬カートに貼付したタグをカメラで読み取り、位置合わせ後にコの字型のフレームを拡げカートを把持
- ④注射薬カートを把持した本ロボットは、事前に設定したルートに沿って障害物を検知しながら指定された配送先の病棟まで自律移動し無人で注射薬カートを搬送
- ⑤配送先に到着した本ロボットは、指定の置き場に注射薬カートをドロップオフ(置き配)し、空のカートを回収して薬剤部に戻る



【特長】
- 1市販品の注射薬カートを自律移動により無人搬送
本ロボットは、医療施設で広く普及している市販品の注射薬カート(写真4参照)に対応しており、現在使用しているカートの車輪を交換するだけでロボットによる無人搬送が行えます。今後、注射薬以外の書類や診材(医療機器・器具や医薬品、消耗品等)、リネン、廃棄物等の搬送にも用途を拡大する予定です。 - 2夜間運用により日中時間帯のエレベータ混雑を緩和
本ロボットは自律移動・無人搬送が可能なため、夜間に本ロボットを稼働させて注射薬を搬送しておくことで、日中時間帯のエレベータ利用の混雑を緩和することができます。 - 3各種センサーや音・音声・ランプ等で走行中の安全を確保
本ロボットはアーム部に各種センサー、カメラ等を搭載しており、搬送中に障害物との衝突回避やバンパーセンサーにより挟み込み防止など安全を確保しながら走行します。また、搬送中はメロディを流すことで、近くにいる人にロボット搬送を周知するとともに、右・左折時には音声とライトで周囲に通知するなど安全性の確保に配慮しています。 - 4エレベータや自動ドアなど施設内設備との連携が可能
本ロボットは、当社が開発したロボット統合管制プラットフォーム「RoboHUB」※1(図2参照)と連携が可能です。RoboHUBの導入施設では、本ロボットのエレベータによる上下階への移動や自動ドアの通過が可能となります。また、ナースコールや内線電話などとの連携も可能なため、出発・到着の連絡や異常が起きた場合の通報なども行え、医療従事者の業務効率の向上に寄与できます。

【製品化に向けたロボット運用実証】
本ロボットは2023年10月から2024年2月にかけて札幌市など3カ所の病院※2で試験運用を実施し、ロボットの安全性・走行性・利便性などを検証しました。それらの成果や試験運用で明らかとなった課題等を踏まえ、2026年中の製品化を目指して、親しみやすいデザインの採用やさらなる機能改良に継続して取り組んでいきます。
今後当社は、様々な分野で生産性の向上や人手不足の解消を実現するサービスロボットの活用を提案するとともに、「RoboHUB」を利用したロボットフレンドリーな施設を提供することで、お客様の新たな価値創出に向けて取り組んでまいります。
- ※1
ロボット統合管制プラットフォーム「RoboHUB」:
メーカーの異なる複数ロボットの稼働状況を一括管理し、建物設備などとの連携を可能するクラウドシステム https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2022/220606_8778.html - ※2
3つの病院:(順不同)
社会医療法人交雄会メディカル 交雄会新さっぽろ病院(札幌市)、医療法人社団幸隆会 多摩丘陵病院(町田市)他

- ※DX認定とは「情報処理の促進に関する法律」に基づき、「デジタルガバナンス・コード」の基本的事項に対応する企業を国が認定する制度です。