リリース

高力ボルトと構造用接着剤を併用した鉄骨部材の接合法「T-Glue Joint」を開発

-2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の鉄骨造建築物の鉄骨ブレース接合部に国内初適用-

2024年12月20日
大成建設株式会社

 大成建設株式会社(社長:相川善郎)は、鉄骨部材の接合に高力ボルトと構造用接着剤を併用する新たな接合法「T-Glue Joint(ボルト併用タイプ)」(図1参照)を開発しました。本接合法は、経済性と安全性、施工性を兼ね備えており、2025年大阪・関西万博のテーマ事業「シグネチャーパビリオン」の中で、小山薫堂テーマ事業プロデューサーが担当する「EARTH MART」(図2参照)の鉄骨ブレース接合部に国内で初めて適用されました。

 建設分野では、従来から鉄骨部材の接合法として主に高力ボルト接合※1と溶接接合が用いられてきました。いずれの接合法も接合箇所が増えると作業手間や時間を要しコストアップにも繋がるため、より施工性や経済性に優れた接合法が求められていました。一方、高力ボルトや溶接を用いない接合法には接着剤を活用する方法があり、高強度の構造用接着剤は航空産業や自動車産業で盛んに利用されています。建設分野でも構造用接着剤を鉄骨部材の接合部に用いるための検討が行われてきましたが、構造用接着剤は指定建築材料ではないことに加え、接着後に接着層にひび割れが生じるとそれらが一挙に広がり脆性破壊※2が生じる可能性があることから、下地鉄骨等の非構造部材への使用に限られていました。また、建築工事への接着剤の適用では、接着剤の可使時間※3内に作業を行う必要があるという施工上の課題もありました。
 そこで当社は、高力ボルト接合と構造用接着剤による接合を組み合わせ、経済性だけでなく安全性や施工性が大幅に向上する、鉄骨部材の新たな接合法「T-Glue Joint(ボルト併用タイプ)」を開発し、載荷実験により、本接合法を適用した鉄骨部材が構造部材として十分な耐力を有していることを検証しました。また、この結果を基に第三者機関による安全審査で構造部材への適用が承認され、2025年大阪・関西万博のシグネチャーパビリオンの建築工事で地震力を負担する鉄骨ブレース接合部に本接合法が国内で初適用されました。(写真1参照)

 本接合法の特長は以下の通りです。

  1. 1

    高い構造性能により鉄骨造建築物の経済性が向上
    本接合法は接着剤のせん断接着により応力を伝達します。そのため、接合面の摩擦により応力を伝達する高力ボルト接合のすべり耐力に比べ、約2倍のせん断接着耐力を発揮することができます。この優れた構造性能により、接合部面積の20%削減および高力ボルト本数の30%低減が可能となり、鉄骨造建築物の経済性が向上します。

  2. 2

    高力ボルトと構造用接着剤の併用により安全性が向上
    接着剤を塗布した鉄骨部材を高力ボルトで圧締することにより、安定した強度を保持すると同時に、大地震時に接着層が万一破断した場合も高力ボルトがフェールセーフとして機能することで安全性を高めています。

  3. 3

    構造用接着剤の可使時間の延長により施工性が向上
    本接合法では可使時間の長い接着剤の採用により作業時の時間的制約が解消されるため、鉄骨接合部の施工性が大幅に向上します。

 今後当社は、載荷実験および検証結果から得られた知見と適用実績を基に、新築・リニューアルプロジェクトにおいて本技術の適用拡大を進めてまいります。

図1 「T-Glue Joint(ボルト併用タイプ)」の構成
図1 「T-Glue Joint(ボルト併用タイプ)」の構成
図2 2025年大阪・関西万博シグネチャーパビリオン「EARTH MART」の外観
図2 2025年大阪・関西万博シグネチャーパビリオン「EARTH MART」の外観
写真1 鉄骨ブレース接合部の接合状況
写真1 鉄骨ブレース接合部の接合状況
  1. ※1

    高力ボルト接合:
    柱・梁接合部、その他の板要素の接合部に用いられる接合法のこと。応力は高力ボルトの高い締付力によって生じる部材間の摩擦力によって伝達される

  2. ※2

    脆性破壊:
    外力を受けた物体が、変形をほとんど生じないまま破壊に至る現象

  3. ※3

    可使時間:
    主剤と硬化剤を混合してから施工(ボルト本締め)が完了するまでの使用可能時間