大成建設、蒜山(ひるぜん)自然再生協議会が自然共生サイト「蒜山高原鳩ヶ原草原及び周辺湿原」保全の連携協定を締結
2024年12月2日
大成建設株式会社
大成建設株式会社(社長:相川善郎)は、蒜山(ひるぜん)自然再生協議会(会長:日置佳之)と自然共生サイトである「蒜山高原鳩ヶ原草原及び周辺湿原」保全のための7年間の連携協定を締結しました。本協定の締結により、環境省の自然共生サイトマッチングを通して、自然環境を保全する自然共生サイト※1の趣旨を踏まえ、草原・湿地再生に関する新たな技術の開発や、保全・回復した草原・湿地環境の自然資本※2の価値を算出し、将来的な生物多様性クレジット化※3に向けた仕組みを試行していきます。
近年、気候変動と生物多様性の保全が世界的課題として注目されています。2022年10月の生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で合意された「昆明・モントリオール生物多様性枠組(以下「GBF」)※4」では、ネイチャーポジティブの目標が設定されました。
また、国内においては「生物多様性国家戦略2023-2030※5」に基づき、OECM※6のデータベース登録を進め、2030年のネイチャーポジティブの達成に向けた取り組みが盛んになっており、TNFD※7における情報開示の枠組みでは、企業は生物多様性への取り組みの透明性を求められ、自然共生サイトの認定や支援が活発化しています。
このような中、当社では世界的な気候変動と、生物多様性保全という課題解決に向け、「蒜山高原鳩ヶ原草原及び周辺湿原」の良質な自然環境を保全することを目的とした協働事業を蒜山自然再生協議会と実施することとしました。
岡山県真庭市蒜山(以下「蒜山地域」)は、半自然草原※8や湿地など、動植物の希少種割合が高く自然豊かな地域であり、その自然環境は伝統的な農林業により支えられており、昨今、その豊かな自然環境が産業や生活様式の変化・気候変動・少子高齢化による人手不足などの影響により、自然環境の維持が困難となり縮小・劣化する状況にあります。
また、生物多様性国家戦略で指摘される「自然に対する働きかけの縮小による危機※9」が懸念される地域です。
今後当社は、蒜山自然再生協議会と連携しながら、古くから人と自然の関わりによって守られ、受け継がれてきた蒜山地域の豊かな自然資源の保全・活用に、建設分野でこれまで培った知見を活かして取り組むとともに、維持管理の仕組みを構築しながら持続可能な発展を目指してまいります。そして、次世代にわたる豊かな自然環境の継承と、ネイチャーポジティブの実現に貢献してまいります。
本協定の主な取り組みは以下の通りです。
- ①茅(かや)の利用促進・拡大
これまで蒜山地域の文化や生業と結びつきながら維持・継承してきた茅という自然資源の現代に合った利用・施工方法を検討します。施工しやすい素材の形や加工を研究開発し、当社物件で建築素材として活用、蒜山地域の茅材の利用推進を図ります。
同時に山焼き等の茅場の保全活動を支援し、利用と保全のバランスがとれた健全な茅場の維持・再生を行います。
人が関わることで守られる多様な二次的自然※10に対する総合的支援と、自然資源の建築材としての利用可能性を探り、地域経済の活性化と自然環境保全が両立する仕組みづくりへ貢献します。 - ②湿地再生・保全
水路の深掘れが進行し植生遷移が進んだ湿地に対して、地下水流動の解析技術と土木的な河川工法等を応用した湿地再生技術の開発を検討します。事業活動によって失われる既存湿地の保全やミティゲーション※11等にも応用できる環境配慮型土木施工技術の確立を目指します。確立した工法はサクラソウ自生地等での湿地再生・保全に適用し、希少動植物の個体数回復に繋げます。
また、地下水や植生の継続的なモニタリングを行い、保全効果を測定します。
これらの保全活動を通して湿原の縮小・劣化を食い止め、良質な自然共生サイトの維持管理に貢献します。 - ③生物多様性クレジットの試行
①茅の利用促進・拡大 ②湿地再生・保全を通じて拡大した保全環境の自然資本の価値を定量的に算出し、自然環境保全の経済的な効果を図ります。創出した自然資本の価値は、生物多様性クレジットの試行版として、自社事業で損失した自然資本のオフセット等に用いることを検討します。

(左より、真庭市役所 伊藤 敦哉 副市長(蒜山自然再生協議会副会長)、蒜山自然再生協議会 日置 佳之 会長、大成建設 谷山 二朗 副社長執行役員クリーンエネルギー・環境事業推進本部長、環境省中国四国地方環境事務所 坂口 芳輝 所長)
- ※1
自然共生サイト:国が認定する民間の取組等によって生物多様性の保全が図られている区域
- ※2
自然資本:動物・植物・水・土・空気など、経済や社会の基盤となる資本
- ※3
生物多様性クレジット:
生物多様性保全へのプロジェクトに投資をする仕組みのひとつで、動植物や生息地に金銭的な価値をつける制度 - ※4
昆明・モントリオール生物多様性枠組:
2022年12月に開催された生物多様性条約第15回締約国会議で採択された枠組みで、2030年までのミッションは「自然を回復軌道に乗せるために生物多様性の損失を止め反転させるための緊急の行動をとる」、2050年ビジョンは「自然と共生する世界」とされている新たな世界目標 - ※5
生物多様性国家戦略2023-2030:
「昆明・モントリオール生物多様性枠組」を踏まえ、2023年3月に閣議決定された日本の新たな生物多様性の保全と持続可能な利用に関する基本計画 - ※6
OECM:
Other Effective area-based Conservation Measuresの略で、国立公園のように法的に設定される保護地域以外で、環境保全や生物多様性の維持に貢献している地域 - ※7
TNFD:
Taskforce on Nature-related Financial Disclosuresの略で、自然関連財務情報開示タスクフォース - ※8
半自然草原:
草刈り、火入れ、放牧などの継続的な人為的活動で植生遷移が進まず、維持されている草原 - ※9
自然に対する働きかけの縮小による危機:
日本の「生物多様性国家戦略2012-2020」で示された4つの危機のうちの第2の危機で、日本での人口減少と都市部への集中に伴い、中山間部での人間活動で維持されていた多様な生態系の失われる危険のこと - ※10
二次的自然:原生自然に対して、人手が入ることで維持されてきた自然
- ※11
ミティゲーション:開発によって発生する自然環境への影響を軽くするために行う補償・代替措置