生成AIを活用した建築施工技術探索システムを開発
2024年10月31日
大成建設株式会社
大成建設株式会社(社長:相川善郎)は、「生産プロセスのDX」の一環として、生成AIと検索システムを融合し、建築施工に関する専門的な質問に対して正確な回答を迅速に提供できる「建築施工技術探索システム」を開発しました。本システムの活用により、業務経験が浅い社員でも専門分野の技術情報を的確かつ効率的に収集できます。また、本システムを用いて若手からベテラン社員まで的確で迅速な技術サポートを行うと同時に、建築施工技術に関する情報や知識の共有が実現し、確実な技術継承が可能となります。
昨今、建設業界では、担い手不足や就労者の高齢化、働き方改革、生産性向上など対応すべき多くの課題に直面しています。専門技術を次世代へ継承する課題もその一つです。従来はベテラン社員が豊富な経験と知識を基に若手社員を個別に指導し、技術やノウハウを直接伝え、情報や知識を共有することで技術を継承してきました。しかし、多くの専門用語を理解するまでに相応の期間を要することや、専門技術が属人化すると知識共有を図りにくいことなどが課題となっていました。さらに近年、専門分野に特化した技術情報の著しい増加に伴い、専門技術の情報・知識共有や継承がいっそう困難になりつつあります。これらの課題を解決する有効なツールとしてデジタル技術が期待されています。最新のデジタル技術を効果的に活用することで、蓄積された膨大な専門技術資料や書類の中から必要な情報を短時間で取り出し、関係者間でそれらの情報や知識を共有することができます。
一方、様々なコンテンツを生成できるAIとして生成AIが注目され、人間のように会話ができる大規模言語モデル(Large Language Model:LLM)を組み入れた生成AIの活用が幅広い分野で広がっています。しかし、利用者の質問に対し、もっともらしく不正確な回答を提供するようなハルシネーション※1と呼ばれる現象が生じる可能性があり、正確な情報の検索・共有への適用には課題があるとされてきました。
そこで当社は、信頼性の高い膨大な社内技術資料の蓄積データの中から専門性の高い質問に関連する資料や文献を選別・抽出し、それらの情報を基に検索拡張生成(Retrieval-Augmented Generation:RAG※2)を用いて、生成AIが適切で正確な回答を迅速に提供できる「建築施工技術探索システム」を開発しました。(図1参照)本システムでは、利用者が専用アプリを介して入力した質問事項に対し、生成AIがシステム上で回答するとともに、建築施工技術に関する質問と回答から得られる専門知識やノウハウをデータベース化します。蓄積されたデータを基に、関係者間で的確かつ効率的に情報・知識を共有し、施工技術の確実な継承を行います。
本システムの特長は以下のとおりです。
- 1
専門用語や生成AIの利用に不慣れでも容易に検索可能
本システムは、質問に用いる専門用語の知識がない場合や、生成AIの利用に不慣れな場合でも、利用者の質問に対して、システム側で自動的に最適化された指令文を書き加えることで、生成AIから的確な回答を容易に得ることができます。 - 2
利用者からのフィードバックにより継続的に回答精度を向上
生成AIによる回答内容が不正確だったと利用者からフィードバックがあった場合には、建築施工に関する各技術分野の専門家チームが生成AIの回答を確認し、模範解答を作成・登録することで、本システムのデータベースに蓄積されるとともに、利用者へ模範解答が通知されます。このような仕組みにより、システム全体で継続的に回答精度が向上し、より正確で信頼性の高い情報の提供が可能となります。 - 3
ハルシネーション防止により生成AIの信頼性を大幅に向上
本システムは、社内の信頼性の高い技術資料データベースと生成AIを組み合わせたRAG技術を採用しています。さらに、生成AIの回答に対して専門家チームによる評価・修正を加えた模範解答と連携させることで、ハルシネーションの発生を防止し、生成AIに対する信頼性を大幅に向上させています。
今後当社は、利用者からのフィードバックに基づき本システムの機能を継続的に改善し、若手をはじめとする業務担当者の教育や技術サポートなどを通じて、建築施工に関する知識基盤の更なる強化と確実な技術継承の実現を目指してまいります。
- ※1
ハルシネーション:
学習したデータからは正当化出来ない回答を人工知能が堂々と生成する現象 - ※2
RAG(Retrieval-Augmented Generation):
自社に蓄積された大量の業務文書・規定などの社内情報や外部の最新情報を活用する手段として、信頼できるデータを検索して情報を抽出し、それに基づいて大規模言語モデルに回答させる方法
- ※DX認定とは「情報処理の促進に関する法律」に基づき、「デジタルガバナンス・コード」の基本的事項に対応する企業を国が認定する制度です。