リリース

新たな液状化解析ツールを開発しTDAPⅢに実装

-高精度な評価に基づく効果的な液状化対策と安全・安心な構造物の構築が可能に-

2024年6月5日
大成建設株式会社
株式会社アーク情報システム

 大成建設株式会社(社長:相川善郎)と株式会社アーク情報システム(社長:中島康普)は、地震発生から地震後まで液状化地盤と周辺構造物の挙動を高精度に評価することができる新たな解析ツールを開発し、土木・建築分野で豊富な実績を有する3次元非線形時刻歴応答解析プログラムTDAPⅢ※1に実装しました。液状化に対する構造物の安全性評価に本解析ツールを活用することで、信頼性の高い評価に基づく合理的な液状化対策工法や基礎構造の検討が可能になり、より効果的な液状化対策と安全・安心な構造物の構築を実現できます。

 昨今の大規模地震では、震源に近い地域をはじめ各地で液状化が起こり、地盤の変形に伴って多くの構造物が沈下や傾斜などの被害を受けています。液状化に伴う被害は地震の揺れによる「地盤の剛性低下」と「地下水の排出」で生じる地盤変形に起因します。(図1参照)そのため、合理的で最適な液状化対策の立案や構造物の基礎の設計においては、液状化に伴う地盤変形のメカニズムを解析プログラムを用いて忠実に再現することが重要となります。しかし、従来の液状化解析プログラム※2ではコンピューター処理能力の限界などから、地下水の動きを詳細にモデル化できず、液状化現象の十分な再現には至っていませんでした。このことから、対象地盤の透水性が高い場合や、小刻みに揺れる高周波数成分を含む地震動※3を入力するような解析では誤差が大きくなり、液状化に対する安全性を考慮した対策工や基礎構造が結果として必ずしも適切な仕様になっていない可能性がありました。

 そこで当社は、昨今のコンピューター処理能力の飛躍的な向上により高度解析技術の適用が可能になりつつある現状を踏まえ、新たに開発した液状化解析ツールを、土木・建築分野で豊富な実績がある3次元非線形時刻歴応答解析プログラムTDAPⅢに実装し、同プログラムを用いたシミュレーション解析結果と遠心模型による実験結果を比較して解析精度を検証しました。(図2参照)

本解析ツールの特徴は以下のとおりです。

  1. 1

    複雑な地層構成の地盤や高周波数成分を含む地震動に適用可能
    液状化が懸念される密度や透水性の異なる地層が複雑に堆積した地盤でも、地震発生から地震後まで一連の地下水の動きをより精緻に表現できる解析手法※4を適用することで、「地盤の剛性低下」と「地下水の排出」で発生する地盤変形を厳密に解析します。また、従来の液状化解析プログラムでは困難であった、高周波数成分を含む地震動による地下水の動きも精度良く再現でき、地盤の変状を適切に評価できるため、より効果的な液状化対策の立案・実行が可能になります。

  2. 2

    液状化に伴う構造物の挙動を高精度に解析可能
    TDAPⅢには構造物の形状・仕様などに応じた多種多様なモデルが装備されており、それらを併用することで、液状化に伴う構造物の複雑な挙動をより高精度に解析できます。シミュレーション解析の結果を基に構造物の損傷度なども適切に評価でき、対策工や基礎構造の更なる合理化が図れます。

  3. 3

    液状化対策の効果などを3次元で容易に確認可能
    解析結果を立体的に可視化することが可能です。地盤の変位や地下水の圧力分布、構造物の安全性などを3次元で把握できるため、液状化が発生するエリアや構造物の損傷度、対策工の効果などを容易に確認できます。

  4. 4

    遠心模型実験との比較により精度の高い解析結果とツールの有用性を確認
    上部構造物とそれを支持する杭を模した遠心模型実験との比較により、本解析ツールの精度を検証しました。シミュレーション解析結果は、実験で測定された液状化による地下水の圧力や杭の曲げなどの挙動を忠実に再現しており、本解析ツールの有用性が確認されました。

 今後当社は、臨海部の高層建物や湾岸域に立地するエネルギープラントをはじめ様々な施設や構造物などの計画に本解析ツールを活用していきます。また、解析プログラムの高度化や解析モデルの大規模化への対応など更なる機能拡張に向けた取り組みも進め、液状化被害に対してより強固な建物づくりと国土強靭化に貢献してまいります。

図1 液状化に伴う地盤の変形のメカニズム
図1 液状化に伴う地盤の変形のメカニズム
図2 杭基礎を設置した遠心模型実験とシミュレーション解析の比較
図2 杭基礎を設置した遠心模型実験とシミュレーション解析の比較
  1. ※1

    3次元非線形時刻歴応答解析プログラムTDAPⅢ:
    土木・建築分野に特化したモデルが数多く実装されている3次元FEM解析プログラムであり、地震前の条件設定に必要な解析から地震に伴う挙動を時々刻々追跡する解析まで、一連の解析が可能な汎用のプログラム。(https://www.ark-info-sys.co.jp/jp/product/tdap/tdap3/)

  2. ※2

    液状化解析プログラム:
    ここでは、「有効応力」と呼ばれる地盤の応力をベースにしたプログラムであり、液状化に伴う各種挙動を指定した時間間隔で追跡する「時刻歴応答解析手法」を用いたプログラムを指す。

  3. ※3

    高周波数成分を含む地震動:
    地震動には、ゆっくりと揺れる低周波数成分から小刻みに揺れる高周波数成分まで、様々な周波数成分が含まれる。液状化が懸念される地盤や透水性が高く地下水が流れやすい地盤が高周波数成分によって強く揺すられると、地下水が動きやすくなるため、地下水の挙動を詳細に表現できる解析が必要になる。

  4. ※4

    一連の地下水の動きをより精緻に表現できる解析手法:
    液状化が懸念される地盤は、「飽和多孔質体理論」と呼ばれる理論により、土粒子が形成する骨格構造(土骨格)とその間の間隙を満たす水(間隙水)からなる多孔質体で表現される。本理論から導かれる地盤の支配方程式には複数の実用的な形式があり、今回の実装では地盤や地震動の特性に対して適用性が最も高く、厳密な「u-w定式化」(土骨格の変位uと間隙水の平均相対変位wを未知数とする定式化)とそれに基づく解析手法を採用している。