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山岳トンネル工事での発破掘削を震源とする長距離地質探査法をスマート化

-計測装置の設置・測定時間を大幅に短縮し、受振器回収・再利用によりコストも大幅削減-

2024年5月7日

 大成建設株式会社(社長:相川善郎)は、2021年に開発した地山の地質構造を調べる弾性波探査※1の震源にトンネルの発破掘削を活用して従来法の2倍以上の長距離探査を可能にした地質探査法「T-BEP(=Taisei Blast Excavation Prospecting)」を改良し、計測装置に無線通信を採用するなどスマート化を図りました。掘削作業を妨げずに切羽前方350m付近までの地山状況を事前に把握することが可能な本技術に改良を加えることで、計測装置の設置・測定時間が大幅に短縮されるとともに、受振器の回収・再利用により計測コストの大幅な削減が可能となります。

 山岳トンネル工事では、掘削作業の安全を確保するため、大量湧水が想定される湧水帯や岩盤が脆い状態になっている破砕帯の位置や規模などの詳しい地山状況をできるだけ早期に把握し、事前に様々な対策を講じる必要があります。特にトンネル掘削位置と地表面の標高差が大きい大土被り区間の工事では、地表からの事前調査の精度向上が求められています。当社は、トンネルの発破掘削を弾性波探査の震源として活用するとともに振動の受振器に独自の改良を加えることで、従来の2倍以上となる切羽前方350mまでの地山状況を把握できる長距離地質探査法「T-BEP」を開発し、実施適用しています。この探査法では、削孔した孔壁に受振器を設置後、隙間にモルタル充填して地山と密着させ測定精度を高めてきましたが、計測装置の設置から測定開始に至るこれらの作業※2に約10時間を要していました。また、火薬による発破と同時に受振器に対して探査開始信号を伝達するため、有資格者が発破装置と受振器を結線する作業※3を行っており、地山探査での作業効率と安全性の向上を図るためには、このような有線による通信方法にも改善が必要となっていました。

 そこで当社は、「T-BEP」の受振器とその設置方法や信号を送る通信方法を改良し、計測装置の設置・測定作業を簡便かつ効率的に行えるようスマート化を図りました。これまでに富山県の利賀トンネル(仮称)建設工事※4(発注者:国土交通省北陸地方整備局)において新たな探査法の検証を行い、測定精度を維持しつつコストの大幅な削減が可能となることを確認しました。

 スマート化したT-BEPの特徴は以下の通りです。(図1、図2参照)

  1. 1

    孔壁への受振器設置方法の改良により測定に要する時間を大幅に短縮
    本技術では地山探査に当たり、受振器を削孔した孔壁に密着させる方法として、モルタル充填方式から受信器を孔壁にアームで固着する機械式に改良しています。アーム固着式受振器を用いることで、受振器の設置から20分程度で測定を開始でき、測定に要する時間の大幅な短縮が可能となりました。

  2. 2

    受信器の回収・再利用により設置・計測に係るコストを大幅に削減
    従来の受振器は測定実施後の装置回収・再利用が困難でしたが、アーム固着式受振器は繰り返しの使用が可能なため、計測装置改良前の「T-BEP」と比べ、設置・計測に係るコストを約40%削減することができます。

  3. 3

    専用発振器の開発により地山探査の作業効率と安全性が向上
    受振器の測定データ収録装置に探査開始の信号を送る際に、新たに開発したワイヤレス式の専用発振器を用いることで、有資格者による配線作業が不要となり、地山探査における作業効率と安全性の向上が図れます。

 今後、当社はトンネルと地表面の標高差が大きい大土被り区間を有する山岳トンネル工事での地山状況の把握に本探査法を積極的に展開し、地山探査における測定精度向上、作業効率化および安全性の向上を図ることで、トンネル掘削時の安全確保と生産性の更なる向上に努めてまいります。

図1 概要図
図1 概要図
図2 スマート化したT-BEP
図2 スマート化したT-BEP
  1. ※1

    弾性波探査:
    発破などにより地盤に人工的に地震波を作り出して、地盤中を進む地震波の伝わり方を観測することにより、地盤の地質構造(軟弱な地盤の位置や規模)を把握する調査方法。

  2. ※2

    計測装置の設置から測定開始に至るこれらの作業:
    T-BEPは切羽前方の湧水帯や破砕帯などの地山で反射する発破による振動を受振孔に設置した受振器で捉え地山状況を推定する。従来、受振器を地盤に密着させるため受振孔の孔壁と受振器の隙間にモルタル充填して利用しており、設置から測定開始まで約10時間を要していた。

  3. ※3

    有資格者が発破装置と受振器を結線する作業:
    従来のT-BEPでは、火薬の発破と同時に探査開始信号を有線で受振器に伝達していた。このため有資格者が発破箇所近傍で火薬と受振器を結線する配線作業が必要であった。

  4. ※4

    利賀トンネル(仮称)建設工事:
    本トンネル建設工事は、新設される利賀ダムの工事用道路(延長9.3kmで富山県南砺市利賀村栃原地先(国道156号)から利賀村利賀地先(利賀行政センター)に至る)のトンネル部で、4工区からなる。当社はこのうち2工区の約2.4km区間の掘削を担当する。