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大成建設、特種東海製紙、十山の3者で山林利用・保全の連携協定を締結

-3者共通の創業者大倉喜八郎が残した井川山林の豊かな自然環境を保全する活動を開始-

2024年4月19日
大成建設株式会社

 大成建設株式会社(社長:相川善郎)は、特種東海製紙株式会社(社長:松田裕司)と十山株式会社(社長:田中秀紀)の3者で、共通の創業者である大倉喜八郎が残した静岡県静岡市井川地区の山林利用・保全に関して、7年間の連携協定を締結しました。

 本協定の締結により井川山林※1の自然環境の劣化を防ぎ回復させるための保全活動と、これを持続可能なものとするための「利用と保全の好循環」を創出する取り組みを開始します。この活動を通じて、他の高山帯や極地環境など、他地域でも展開可能な保全活動のモデルづくりに取り組みます。

 自然資本※2の劣化が世界規模の危機として警鐘が鳴らされるなか、生物多様性の損失も気候変動と並ぶ重要な課題として認識が広がっています。2022年12月には、国連の生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)にて、生物多様性に関する新たな世界目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組み」が採択されました。これを受け日本政府では、2023年3月に生物多様性に関する国家戦略を閣議決定し、環境省はネイチャーポジティブ※3の実現に向けて、「30by30※4」の目標を掲げました。そして、企業においては目標達成のために、自然共生サイト※5への積極的な申請や、保護地域保全への貢献等を企業の役割として求められています。

 そこで当社は、大倉喜八郎が残した豊かな自然環境を有する井川山林において、近年深刻化する気候変動やニホンジカによる食害を原因とした高山植物群落の衰退、土壌侵食といった自然環境の課題解決を目指し、3者での活動を開始します。持続的な保全活動と、それを支える継続的な保全資金と人材の確保のため、観光資源となる新たな井川山林の魅力発掘や、環境インパクトを最小限に抑えた滞在施設の検討等を通じて、井川山林の利用と保全の好循環の仕組みづくりに取り組みます。

 今後当社は、持続可能な保全活動のための利用と保全の好循環モデルの構築を通じ、人工資本※6、人的資本※7を下支えする自然資本の維持・再生に積極的に取り組み、ネイチャーポジティブの実現に貢献してまいります。

 本協定の主な取り組みは以下の通りです。

  • 井川山林の自然環境を保全する活動
    • ・植生調査

      井川山林の亜高山帯~高山帯にかけて植生調査を実施します。主な植生パターンを把握するほか、重点的に保全すべき範囲を抽出し、防鹿柵を設置する保護区域を設定します。

    • ・防鹿柵の設置

      防鹿柵を設置し鹿食害の被害拡大を防止します。この対策により、国立公園および国立公園隣接地の貴重な植生の消失を防ぎます。設置後は防鹿柵内の植生調査を定期的に行い、植生の変化を把握します。

    • ・観光客と連携したモニタリング

      井川山林を訪れる観光客が撮影した写真などのデジタルデータを活用した、市民科学と自然環境調査のDXによるモニタリング調査を実施します。得られた結果は希少種の分布把握や、鹿柵設置等の保全計画へのフィードバックに役立てます。

  • 利用と保全の好循環を生み出す仕組みづくり
    • ・井川山林の自然の魅力の再発掘

      井川山林で行われている学術研究を基に地域の特性を評価し、観光資源となる井川山林の自然環境の魅力を再発掘します。既存の研究論文や本取組で実施した植生調査結果から得られた詳細な自然環境データに基づき分析を行います。

    • ・環境負荷を最小限化した滞在施設の検討

      観光等の利用による環境インパクトを最小限に抑える滞在施設の在り方を検討します。特種東海製紙と十山の山岳地域での山小屋運営の知見を活かし、当社技術と組み合わせた新たなオフグリッド※8施設など、環境負荷インパクトを低減した滞在施設の開発検討を行います。得られた新たな環境配慮型建築技術は、観光立国を目指す我が国におけるサステナブルツーリズム※9を促進する基盤として、その他の国立公園などへの提案等を展開していきます。

図1 調印式写真
図1 調印式写真
(左:大成建設 副社長執行役員 クリーンエネルギー・環境事業推進本部長 谷山 二朗、
中央:特種東海製紙式会社 上席執行役員 環境関連事業本部長 福井 里司、
右:十山株式会社 代表取締役社長 田中 秀紀)
図2 井川山林「利用と保全の好循環」の概念
図2 井川山林「利用と保全の好循環」の概念
  1. ※1井川山林:2.4万haの広さを誇り、10座の3000メートル峰を擁する日本を代表する山岳地域。山地帯から高山帯まで多様な生態系を保持しており、固有種、希少種が存在する生物多様性ホットスポットとしてその保全が重要視されている。一部が南アルプス国立公園に指定されているほか、自然環境の保全と利活用の調和を目指す南アルプスユネスコエコパークに登録されており、2023年には自然共生サイトにも登録された。
  2. ※2自然資本:動物・植物・水・土・空気など、経済や社会の基盤となる資本
  3. ※3ネイチャーポジティブ:自然生態系の損失を食い止め、回復させていくこと
  4. ※430 by 30:ネイチャーポジティブに向け、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする目標
  5. ※5自然共生サイト:国が認定する民間の取組等によって生物多様性の保全が図られている区域
  6. ※6人工資本:道路、建物、機械、港湾など、人間が生み出す資本
  7. ※7人的資本:健康、教育、資質など、人間に蓄積される資本
  8. ※8オフグリッド:電力、ガス、水道などを公共インフラに依存せずに、独立して確保できる状態
  9. ※9サステナブルツーリズム:地域の環境、文化、経済を守りながら、地域資源を持続的に保つことができるような観光の総称