切羽の岩盤強度分布を算出・可視化する「T-iBlast® TUNNEL」を開発
2023年12月15日
大成建設株式会社
大成建設株式会社(社長:相川善郎)は、「生産プロセスのDX」の一環として、山岳トンネルの掘削に用いる施工機械フルオートコンピュータジャンボ※1の削孔データ※2を活用して、切羽(掘削面)の岩盤強度分布を算出・可視化する「T-iBlast TUNNEL」を開発しました。本技術の適用により、これまでオペレータや技術者の定性的な判断に頼っていた岩盤強度の評価が定量的に行えるようになり、施工の合理化と生産性の向上が可能となります。
高齢化社会の進展により生産労働人口の減少が社会問題となる中、建設業界でも技術者や技能者数不足が深刻化しています。このため人材を確保する対策の実施と同時に建設現場の生産性向上に向けた取り組みが求められており、山岳トンネル工事においても施工機械の自動化や省力化工法の採用が進められています。また、掘削作業に関わる発破計画や支保選定※3など施工方法の判断に繋がるような施工データの入手・活用も必要となります。従来方式では、熟練の削孔オペレータや経験豊富な技術者が、削孔時の発生音や振動の変化、切羽の目視観察などの定性的な評価と過去の施工経験を照らし合わせて岩盤強度を評価してきました。しかし、将来的なトンネル施工の自動化を目指すためには、岩盤強度の定量的な評価と掘削実績との組み合わせによるビッグデータの蓄積・活用によって、施工方法の判断を合理化する必要があります。
そこで当社は、フルオートコンピュータジャンボの削孔データから定量的な岩盤評価データとして活用できる岩盤強度を算出して、その分布状況を可視化する「T-iBlast TUNNEL」を開発し、発破計画や支保選定など合理的な施工方法の判断を可能にしました。これまでに複数のトンネル施工現場で本技術を適用し、その効果を確認しました。
「T-iBlast TUNNEL」の特徴は以下のとおりです。
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岩盤強度分布を可視化でき、定量的な岩盤評価に活用可能(図1参照)
フルオートコンピュータジャンボの削孔データから、発破計画や切羽評価を検討するための1つの指標となる岩盤強度を自動的に取得することができます。個々の削孔データを用いて、切羽における面的な岩盤強度分布を求めることで、定量的な岩盤評価への活用が可能となります。 - 2
ジャンボメーカーに依存せず現場導入直後から評価データ取得が可能
現地での施工に先立ち、主要メーカー3社が市販するすべてのフルオートコンピュータジャンボについて、所定強度のモルタル供試体を削孔するキャリブレーション試験を実施し、削孔データと強度の関係をあらかじめ把握しています。このため、どのメーカーのジャンボでも現場への導入直後から切羽での岩盤評価データの取得を行うことができます。 - 3
支保選定の施工方法判断および合意形成に活用可能(図2参照)
切羽の岩盤強度分布を可視化することで、定量的な岩盤評価に基づく支保選定などの施工判断や関係者間での合意形成をスムーズに実施することができます。例えば、トンネル掘削方向に対する岩盤強度の連続的な変化を的確に把握できるため、支保パターン変更の根拠資料の1つとして活用することが可能です。また、これらの定量的な評価データを蓄積し掘削実績と比較検証することで、切羽の岩盤強度に応じた発破計画(削孔位置、削孔数、装薬量など)への活用なども可能となります。
今後当社は、フルオートコンピュータジャンボを配置した全国の山岳トンネル工事に本技術の導入を図りながら、岩盤評価結果の信頼性向上を進めてまいります。また、将来的には本技術で得られた岩盤強度分布と掘削実績から機械学習※4を用いたデータ処理により、地山状況に応じた最適な施工方法を抽出することで、発破薬量の算出や支保選定の完全自動化を実現する技術の確立を目指してまいります。
- ※1
フルオートコンピュータジャンボ:従来オペレータが手動で行っていた削孔作業を、あらかじめ計画した発破パターン、移動順序に基づき、自動的に行う削孔機械
- ※2
削孔データ:孔情報(孔番号、日付・時間、ブーム番号や削孔順序等)、位置情報(座標X、Y、Z、差し角等)、および機械データ(削孔速度、打撃圧、フィード圧、回転圧等)から構成されるデータ
- ※3
支保選定:掘削後の岩盤に吹付けるコンクリートの厚さやボルトの長さや間隔を決めること
- ※4
機械学習:データを分析・処理する方法の1つで、機械(コンピューター)が自動で学習し、データの背景にあるルールやパターンを発見する方法
- ※DX認定とは「情報処理の促進に関する法律」に基づき、「デジタルガバナンス・コード」の基本的事項に対応する企業を国が認定する制度です。