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「ネイチャーポジティブ評価手法」の開発に着手

企業活動による自然資本への影響を定量評価し、建設事業でのネイチャーポジティブ実現を目指す

2023年10月30日
大成建設株式会社

 大成建設株式会社(社長:相川善郎)は、企業活動がもたらす自然環境への影響を、自然によって生み出される資源のストックである「自然資本」への配慮や経済的要素などの観点から定量評価する「ネイチャーポジティブ評価手法(以下、NP評価手法)」の開発に着手しました。今回の取り組みでは、自然資本評価の分野で多数の研究実績と知見を有する九州大学馬奈木俊介教授の指導のもと、建設事業に特化し客観的に実証された評価手法としての確立を目指します。本評価手法により、お客様の事業におけるNP貢献度を可視化し、投資家をはじめとしたステークホルダーに対する情報開示を支援することで、投融資獲得につなげることができます。

 「ネイチャーポジティブ」とは、2022年12月にカナダで開催された生物多様性条約締約国会議(COP15)で提示された概念で、カーボンニュートラルと並ぶ国際目標として「2030年までに生物多様性を含む自然資本の損失を食い止め、回復軌道に乗せる」ことが新たに約束されました。(図1参照)そのため各国の企業に対しては、自然への依存と影響に関する情報を開示する枠組みであるTNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures:自然関連財務情報開示タスクフォース)に沿った対応が今後義務化される可能性が高く、サステナブル投資※1と同様に、企業活動や経営姿勢に対する新たな評価指標として位置付けられることが想定されています。
 このような背景から大成建設グループは、既存の建物をZEB化してリニューアルする「グリーン・リニューアルZEB」や、カーボンネガティブを実現したコンクリート「T-eConcrete®」の開発・実用化など世界的な社会課題である気候変動を踏まえた様々な取り組みに加えて、「生物多様性コンシェルジュシリーズ」や自然に倣った緑化技術による森づくりなど保有するNP技術を積極的に実プロジェクトに適用し、NPの実現と深化に取り組んできました。当社グループが掲げるTAISEI Green Target 2050では、自然共生社会の実現に向けた3つの軸として①生物多様性への影響把握、②持続可能な調達、③NPに貢献する提案・工事の実施を設定しています。このため、NPの実現を目指した取り組みを推進するうえで、企業活動と自然資本との関わりについての科学的評価が不可欠となりますが、自然資本に対する評価の実施が遅れていることや国内の評価事例が少ないことが、日本学術会議の報告書※2でも指摘され、当面の課題となっています。

 そこで当社は、業界に先駆けて建設事業に特化した新たなNP評価手法の開発に着手し、建設事業全体が自然資本に与える影響を適切に把握・評価することで、建設業におけるNP実現に向けた取り組みを強力に推進していきます。

 本評価手法の特徴および利点は以下のとおりです。(図2参照)

  1. 1

    建設事業全体が自然資本に与える影響を定量的に把握可能
    施工だけでなく、開発範囲内の土地改変を含む「オンサイト」と、調達に関する「オフサイト」の2パターンに分けて評価を行うことで、建設事業全体が自然資本に与える影響をトータルかつ定量的に把握することができます。オンサイト評価では衛星画像を活用し、オフサイト評価では既存のESG(環境・社会・ガバナンス)評価ツールを建設事業用にカスタマイズするなど評価レベルに合わせた適用が可能です。

  2. 2

    評価項目へのシンプルな入力により多くの工事に適用可能
    自然資本の評価対象には、動物・植物・水・土・空気の主要な5要素を設定します。個別の評価に当たっては、いきものの飛来予測を分かりやすく評価する「いきものコンシェルジュ®」などを開発・運用してきた経験とノウハウを活かし、多くの工事に適用できるようシンプルな入力で科学的な評価が可能となる手法を開発します。

  3. 3

    お客様の投融資獲得につながる情報開示の支援ツールとして活用可能
    お客様の事業におけるNPへの影響度や貢献度を示す指数を算出することで、事業の実施前後の比較評価を可視化して提示することができます。これにより、サステナブル投資等と同様の投融資獲得につながる情報開示の支援ツールとして活用が可能な評価手法を実現します。

 今後当社は、本評価手法を用いたNP評価の一部について一般公開を予定しており、建設事業による自然環境への影響評価のニーズがあるお客様が利用できるツールとして提供し、持続可能な社会の構築に向けたNP実現およびお客様の経営基盤強化に貢献してまいります。

図1 ネイチャーポジティブ(NP)概念図

図1 ネイチャーポジティブ(NP)概念図(出典:https://www.naturepositive.orgより転載)

評価範囲と評価対象

評価範囲と評価対象

アウトプットイメージ
アウトプットイメージ

図2 本評価手法のイメージ

  1. ※1

    サステナブル投資:ESG投資を含む社会の持続可能な発展を目指した投資

  2. ※2

    自然資本:動物・植物・水・土・空気などの自然によって生み出される資源のストック

  3. ※3

    日本学術会議 報告書:環境学委員会、サステナブル投資による産業界のインパクト、2023年8月