自動化建設機械の無線緊急停止システムを開発
2023年8月24日
大成建設株式会社
国立大学法人東京大学大学院工学系研究科
大成建設株式会社(社長:相川善郎、以下「大成建設」)と国立大学法人東京大学大学院工学系研究科(研究科長:加藤泰浩、以下「東京大学」)は、「生産プロセスのDX」の一環として、2021年度より自動化建設機械運用の安全性向上のために共同で研究を進めてまいりました。このたび、その成果として自動化建設機械の無線緊急停止システムを開発しました。本システムの導入により、自動運転する建設機械を万一の事態に遠隔で確実に停止することが可能になり、自動化建設機械の運行安全性の更なる向上が図れます。
建設機械の自動化は、人手不足解消・生産性向上・安全性向上の観点から、建設現場への導入が求められている技術の一つで、2022年には国土交通省が関係業界・省庁参画のもと、「建設機械施工の自動化・自律化協議会」を設立し、建設機械施工の自動化・自律化・遠隔化技術の早期普及を推進しています。このような背景から、大成建設では2013年より自動運転・遠隔操作で無人化施工を行う「T-iROBO®」※1シリーズをはじめ、様々な自動化建設機械の協調運転制御システム「T-iCraft®」の開発に取り組んできました。建設機械の自動運転は各種機器やセンサの活用、運転プログラムの搭載によって実施可能ですが、それらが誤作動するリスクを低減させるとともに、万が一、誤作動した場合には建設機械を緊急停止させるなど迅速・確実な対応が必要となります。
そこで大成建設と東京大学は、機能安全の考え方に基づく自動化建設機械の運行安全強化策として、緊急停止信号を発信する送信器および建設機械に搭載する受信器の故障や、送信器の電池切れ等の不測の事態でも、確実に緊急停止が可能な「無線緊急停止システム」を開発しました。
本システムの特徴は以下のとおりです。(図1、図2、表1参照)
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自動化建設機械の確実な緊急停止を実現
通常の無線緊急停止システムでは、監視者がボタンを押して送信した緊急停止信号を運転中の自動化建設機械が受信して緊急停止します。一方、本システムでは、監視者が所持する送信器から建設機械に搭載された受信器に動作許可信号が連続送信されており、送受信器の故障、電池切れ、距離や障害物などにより電波が届かないなどの不具合が発生して動作許可信号が途切れると直ちに建設機械が緊急停止します。 - 2
現場の規模や条件に応じて無線形態を選択可能
本システムは無線免許など特別な手続きがなくても使用可能なデジタル簡易無線※2を活用しており、建設現場での実証実験では見通しがよい条件下で最大9kmまで到達可能なことを確認済みです。そのためダムなど施工が広範囲に及ぶような大規模工事に有効で、基地局が整備されている場所ではLTE-M※3といった特殊無線の適用も可能です。 - 3
複数連携など自動化建設機械の様々な運用形態に適応可能
自動化建設機械の協調運転制御システム「T-iCraft」により複数台で連携を行う場合、現状では複数監視者が複数台の自動化建設機械を監視して安全管理を行っています。緊急停止が必要な場合、対象の自動化建設機械を特定し、停止ボタンを押す従来方式では、瞬時の判断と即時の操作が困難で停止までに時間を要することが想定されるため、本システムは建設機械の一括停止など様々な運用形態にも適応可能としています。
今後、大成建設と東京大学は、本技術の建設現場での検証を継続し、複数台建機の自動連携を踏まえた技術開発を進め、自動化技術の安全性、生産性の更なる向上を目指してまいります。
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T-iROBO®:人とロボットの協働を目的として、大成建設が開発した各種作業用ロボットの総称。自動化建設機械には、振動ローラーが施工位置を把握しながら、自ら判断して自動で転圧作業を行う転圧走行無人化施工システム「T-iROBO® Roller」、削岩したい岩を指定するだけで建設機械が自ら判断して岩に接近し、自動で粉砕する割岩無人化施工システム「T-iROBO® Breaker」、ピット内の土砂を認識して自動的に掘削積込みを行う無人化施工システム「T-iROBO® Excavator」、人体検知システムにより安全性を確保しながら運搬作業を自動で行う自動運転クローラダンプ「T-iROBO® Crawler Carrier」などがある。
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デジタル簡易無線:無線周波数帯が150MHz 帯等のチャネル間隔が6.25kHz の簡易無線局。無線従事者を必要とせず、特定無線設備の技術基準適合証明に関する規則に適合する機器を使用すれば、総務省への無線機の登録・開設届の提出のみで利用可能。
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LTE-M:「Long Term Evolution for Machine」の略。機械がIoTのために利活用することを視野に設定された通信技術。LTEの通信可能範囲であれば建設機械にも使用が可能。
- ※DX認定とは「情報処理の促進に関する法律」に基づき、「デジタルガバナンス・コード」の基本的事項に対応する企業を国が認定する制度です。