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再生可能エネルギー貯蔵・利用システムの開発・実証に着手

「人と空間のラボ(ZEB実証棟)」運用時のカーボンニュートラル化へ

2023年5月24日
大成建設株式会社

 大成建設株式会社(社長:相川善郎)は、当社技術センター(横浜市戸塚区)の「人と空間のラボ(ZEB実証棟)」において、太陽光発電などで得られる再生可能エネルギーの貯蔵・利用が可能な電力供給システムを構築することで、建物運用時のカーボンニュートラル化を実現する汎用的な技術の開発に向けた実証を開始します。今回の取り組みでは、高効率な太陽光発電で得られる余剰電力を蓄電池と水素変換設備※1に貯蔵する仕組みを構築し、太陽光発電だけでは供給電力が不足する時間帯などに有効活用を図ります。さらに、この貯蔵システムと電力の需要・供給を正確に予測・制御する高度なエネルギー・マネジメント・システムの組み合わせにより、建物における再生可能エネルギーの最適な利用を可能とし、脱炭素化への貢献を目指します。

 2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、今後、太陽光や風力など再生可能エネルギーの導入が加速することが見込まれます。しかし、再生可能エネルギーは時間帯や天気、季節によって発電電力量が変動するため、電力ひっ迫時には需要者への節電要請、電力余剰時には電力供給元への出力抑制を余儀なくされるなど、電力の需要と供給のバランスが保たれた安定的な運用が困難となる場合がありました。また、近年の自然災害の増加に伴う発電所の計画外停止や、国際情勢などの影響による世界的な化石燃料価格の高騰なども懸念事項となっています。そのため、脱炭素化を進めるには、多様な発電システムの活用と電力貯蔵などのバランス調整を柔軟に行えるシステムの構築と運用ノウハウの確立が求められています。

 そこで当社は、省エネ・創エネ技術の導入により建物で消費する年間のエネルギー収支がゼロとなるゼロエネルギービル(ZEB)を既に達成している「ZEB実証棟」を、さらに発電能力の高い壁面太陽光発電などの搭載により「人と空間のラボ」にリニューアルし、この度この建物に高効率な発電による余剰電力の貯蔵が可能な「蓄エネルギーシステム」を新たに導入しました。このシステムは、低圧貯蔵が可能な水素吸蔵合金を用いた一連の水素変換設備と蓄電池を国内で初めて組み合わせて構築しています。夜間や緊急時などの電力需要に対しても貯蔵した再生可能エネルギーの利用※2により、従来のように系統電力や都市ガスによる発電に頼らなくても安定して電力を供給でき、石油など化石燃料由来のCO2排出量の実質ゼロを達成することが可能となります。(図1、図2参照)

 本技術の特徴は以下のとおりです。

  1. 1

    創エネ・蓄エネを最適に制御し、運用時のリスク回避が可能
    独自開発のエネルギー・マネジメント・システム(EMS)を用いて、再生可能エネルギーによる発電量(創エネルギー量)と蓄電量(蓄エネルギー量)を把握しながら、蓄電池や水素変換設備をバランス良く制御し、最適運転となるよう計画・調整します。これにより、余剰電力の出力抑制や電力ひっ迫時の対応、将来の電力料金変動など運用時のリスクを回避することができます。

  2. 2

    用途・地域などの規制によらず水素の貯蔵・利用が可能
    多様なエネルギー源として着目されている水素は、高圧ガスボンベで貯蔵する場合、貯蔵量や圧力などの規制があり、用途・地域により保管できる量なども限定されているため、これまで実用的な利用が困難でした。本システムでは、低圧で貯蔵可能な水素吸蔵合金を用いており、用途・地域などの規制がないためどこでも柔軟に利用することができます。

  3. 3

    自然災害や停電など緊急時にも活用できBCPに貢献
    地震や台風などの自然災害や発電所の計画外停止による停電などの緊急時に、太陽光発電設備による再生可能エネルギーや貯蔵された蓄エネルギーを有効活用することが可能となり、BCPに貢献できます。

 今後当社は、本実証を通じて再生可能エネルギー貯蔵・利用システムを確立し、建物運用時のカーボンニュートラル化を目指します。さらに、太陽光発電装置の増設をはじめ創エネルギー導入で得られる電力余剰分の貯蔵と運用によって、建物の建設や解体などに伴い発生するCO2排出量との差し引きにより、建物のライフサイクルを通じてCO2排出量が正味ゼロとなる『ゼロカーボンビル』の実現を目指します。

図1 建物への電力供給方式の比較(従来システム、本システム)

図1 建物への電力供給方式の比較(従来システム、本システム)

図2 本システムの活用による発電と消費電力量の事例(中間期:春・秋)(余剰電力の長期保存は低圧水素吸蔵合金で行い、夜間消費電力量は常時蓄電池が賄う)
図2 本システムの活用による発電と消費電力量の事例(中間期:春・秋)
(余剰電力の長期保存は低圧水素吸蔵合金で行い、夜間消費電力量は常時蓄電池が賄う)
  1. ※1

    水素変換設備:
    水電解装置、低圧貯蔵可能な水素吸蔵合金、純水素燃料電池を備えた設備。太陽光発電で得られた余剰電力を水素に変換して長期間貯蔵し、電力不足時に水素と空気中の酸素を利用して化学反応により電気に変換して供給する仕組み。発電の際に排出されるのは水だけで、同時に発生する熱も有効利用が可能。

  2. ※2

    貯蔵した再生可能エネルギーの利用:
    蓄電池に貯蔵した再生可能エネルギー(余剰電力)は夜間消費電力での利用が主となる短期保存用、水素に変換して低圧貯蔵する場合は自然災害や予期せぬ停電など緊急時に利用する長期保存用で、それぞれの用途に応じて最適に利用する。