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トンネル切羽前方の変位計測技術「TN-Monitor®」を機能拡張

光ファイバーセンサーで鉛直・水平変位を同時計測し、地山の安定性を確認

2023年3月17日
大成建設株式会社

 大成建設株式会社(社長:相川善郎)は、山岳トンネル工事において2016年に開発した切羽(トンネル最先端の掘削面) 前方の地盤変形を計測する技術である「TN-Monitor」の機能を拡張し、光ファイバーセンサーを用いて、これまでの切羽前方の鉛直変位や押出し変位に加え、新たにトンネル横断面方向の水平変位を計測できる機能を追加しました。

 脆弱な地山条件を有する山岳トンネル工事や、周辺構造物や地表面に対する影響を監視するなど厳密な管理が求められる都市部でのトンネル工事では、掘削の影響による変位を常時計測し、大きな変形が生じる前段階から必要な対策を講ずることが重要となります。
 当社では、これまでに多点傾斜計※1と挿入式多点変位計※2を用いたトンネル切羽前方の変位計測技術「TN-Monitor」を開発し、複数の工事に適用してきましたが、その計測対象は地盤の沈下分布状況を把握する鉛直変位と切羽前方からトンネル坑内に押し出される地盤挙動を把握する押出し変位に限定されていました。一方で、土被りの大きな山岳トンネルで鉛直方向よりもトンネル横断方向の地圧が大きい場合や、地盤条件や断面形状の影響でトンネル横断方向に変形しやすい場合には、鉛直変位よりも横断方向の水平変位が大きくなる事例もあり、トンネル全体の変位を計測し、地山の挙動を把握することがより重要となってきます。

 そこで当社は、これらの事例に対応するため、既存技術の「TN-Monitor」の機能を拡張し、多点でトンネルの変位を精度よく計測できる光ファイバーセンサーを複数本組み合わせ、切羽前方の鉛直変位や横断面方向の水平変位などを同時に計測する技術を開発しました。

 光ファイバーセンサーを用いた切羽前方の変位計測技術の特徴は以下のとおりです。

  1. 1

    切羽前方の鉛直・水平変位を同時に計測(図1参照)
    切羽からトンネル前方に向けて打設した鋼管内に角パイプを挿入して、充填材でパイプを固定します。角パイプ内側に設置したパッカー(ゴムチューブ)を窒素ガスで膨張させ、上下左右4箇所に設置した光ファイバーセンサーをパイプに押付けて固定します。センサーによる上下、左右のひずみ差から、鉛直・水平変位を同時に計測できます。

  2. 2

    パッカーおよび光ファイバーセンサーを回収し、再利用可能
    計測終了後には、窒素ガスを抜いてパッカーを収縮し、角パイプ内部に挿入されたパッカーと光ファイバーセンサーを回収して再利用できます。このため、複数区間で計測が必要な場合でも、新たな計測機器の製作が不要で、計測コストを抑制できます。

 また、本計測技術は「滝室坂トンネル東新設(二期)工事」に適用され、計測機器の施工性や再設置による計測データ取得の実現性などの有効性を検証しました。トンネル側壁から斜め前方に配置した光ファイバーセンサーの計測結果では、前方に4m掘削した時点での変位分布は切羽近傍で水平・鉛直変位ともに顕著な増加傾向を示しており、一般的なトンネルと同じ挙動を確認しました。(図2参照)さらに、本計測技術と既開発の計測方法を組み合わせることで切羽前方の地山挙動の立体的な把握が可能となりました。(図3参照)

 今後、当社は、土被りの大きな山岳トンネル工事や近接する既存トンネルへの影響を監視する必要があるトンネル工事などに対して、本計測技術を積極的に活用してまいります。

図1 光ファイバーセンサーによる計測器械の仕様
図1 光ファイバーセンサーによる計測器械の仕様
図2 滝室坂トンネル東新設(二期)工事での計測結果例
図2 滝室坂トンネル東新設(二期)工事での計測結果例
図3 「TN-Monitor」を用いた変位計測事例
図3 「TN-Monitor」を用いた変位計測事例
  1. ※1

    多点傾斜計:加速度センサー搭載型の傾斜計を数珠つなぎにして沈下変位量を計測する変位計

  2. ※2

    挿入式多点変位計:トンネル切羽先行部の奥行方向変位分布(押出し変位量)を計測する変位計