AIを用いた床振動制振装置設計システム「T-Optimus TMD」を開発

最適仕様・配置により建物の床振動を低コストで効果的に低減

2022年9月27日
大成建設株式会社

 大成建設株式会社(社長:相川善郎)は、オフィスなどの床で発生する振動を低減するため、AIを用いてTMD(チューンド・マス・ダンパー)※1を適正に配置する設計システム「T-Optimus TMD」を開発しました。本システムを適用することで、従来よりもTMDの仕様や台数などを最適化でき、低コストかつ効果的に床振動を低減することが可能となります。

 鉄骨造の建物では、利用者の歩行や運動、建物外部からの道路交通振動などで発生する床振動が建物の運用に影響を与える場合があります。これまで床振動を抑制する対策として、1台あたり30~40kgの重りに、ばねと減衰材を組み合わせた「TMD」という制振装置を床スラブとOAフロアの間に複数台設置し、床スラブの上下振動に対して重りが逆方向に動くことで振動を吸収する方法が一般的となっていました。(図1、図2参照)この方法では、TMDの重りとばねを調整し、最も大きく振動する振動数(同調振動数※2)を設定することで床の振動を低減することができます。しかし、従来は床スラブ上に設置されるすべてのTMDの制振機能を集約して、同調振動数など同一仕様を持つTMDが1台と見なして設計していましたが、十分な低減効果を得るためには、床スラブの局所的な揺れに合わせてTMDを多数配置する必要がありました。具体的には、鉄骨造のオフィスでは200~300m2のOAフロアの下にTMDを10~20台程度配置しており、低コストで効果的に床振動を低減することは困難となっていました。

 そこで当社は、AIの一種である、生物の進化の過程をなぞらえながら、膨大なパラメータの組み合わせの中から優れたものを求める反復計算により効率的に最適な解を導き出す「進化計算※3」を用いて、TMDの最適な仕様や配置を設計する、「T-Optimus TMD」を開発しました。(図3参照)また、歩行等により床振動が発生している建物において、本システムの効果を検証し、その有効性を確認しました。

 本システムの特徴および検証効果は以下のとおりです。

【特徴】

  • AIを用いたTMDの最適設計により設置台数を削減し、効率的に床振動を低減
    本システムでは、AIの一種である進化計算により個々のTMDの仕様を最適化できることから、従来設計のように全てのTMDを一つと見なす必要がなくなり、床振動の低減に必要なTMDの同調振動数や台数、配置などを自動で計算し、最適な設計が可能となりました。これにより従来に比べて少ない台数のTMDでも十分な制振効果を発揮できるため、導入コストを削減することができます。

【検証効果】

  • 最小限のTMD設置台数で従来と同等の制振効果を確認
    歩行等により8Hz帯で大きな床振動が発生していた事務所ビルに本システムを適用し制振効果を検証しました。その結果、従来設計において同調振動数8.1HzのTMD10台を設置した場合と同等の制振効果を、本システムでは同調振動数7.8Hzおよび8.3Hzの各3台ずつのTMD6台で達成でき、設置台数を4割削減できることが確認されました。(図4参照)

 今後、当社は、床振動が懸念される新築建物やリニューアル案件に対し、低コストで効果的な床振動対策として本システムを積極的に提案し、実物件への適用を進めてまいります。

図1 TMDを設置した床の断面図
図1 TMDを設置した床の断面図
図2 TMDの原理と構成
図2 TMDの原理と構成
図3 T-Optimus TMDの概要
図3 T-Optimus TMDの概要
図4 TMD設置前後の歩行による床振動の測定例
図4 TMD設置前後の歩行による床振動の測定例
  1. ※1

    TMD(Tuned Mass Damper):重り、ばね、減衰材から構成される制振装置で、ばねの固さを変えて同調振動数を適切に調整し、床スラブとは逆向きに振動させ、エネルギーを吸収する。

  2. ※2

    同調振動数:TMDが最も大きく振動する振動数で、床振動を効果的に低減するように、適切な振動数を導く計算式を用いて設計する。

  3. ※3

    進化計算:生物の進化の過程を模倣することで、対象となるパラメータを変形、合成、選択して、複雑な工学的問題の最適解を探索する手法。人の思考では辿り着けないような解についても効率的に求めることができる。