VOCs汚染地下水の拡散防止技術「T-SoilReme-Biobarrier」を開発

注入管から浄化菌を活性化する浄化材を供給し、狭隘な場所でも施工可能

2022年9月14日
大成建設株式会社

 大成建設株式会社(社長:相川善郎)は、地盤に設置した注入管から浄化材を連続的に供給し、浄化菌を活性化させることで揮発性有機化合物(VOCs)に汚染された地下水の拡散を防止する技術「T-SoilReme-Biobarrier」を開発しました。

 現在、国内では電子部品や金属部品などの洗浄に広く使われてきた塩素化エチレン類(トリクロロエチレンやテトラクロロエチレンなど)が環境規制物質に指定されており、これらの汚染物質で地下水が汚染されている場合には、浄化または拡散防止対策が求められています。
 汚染地下水の拡散防止対策としては、これまで地下水を地上に汲み上げて水処理施設で汚染物質を除去する技術「揚水バリア」が多く用いられてきました。しかし、従来の技術では、継続して汚染地下水を揚水し浄化処理を行う必要があり、処理設備の設置スペースが確保できない狭隘な敷地では適用できないという課題がありました。
 そこで当社は、汚染地下水が拡散する範囲に設置した注入管から汚染物質を分解する溶液状の浄化材を供給して地中の浄化菌を活性化させることで、浄化領域(バリアゾーン)を形成させ、汚染地下水の拡散を防止する技術「T-SoilReme-Biobarrier」(図1、図2参照)を開発し、汚染地盤での実証試験によりその性能を確認しました。本技術の適用により、狭隘な敷地境界においてもコンパクトな設備を用いて注入管から少量の浄化材を供給するだけで汚染地下水の拡散防止が可能となり、揚水バリアと比較してコストや管理の手間などが大幅に低減されます。 

 本技術の特徴および実証試験結果は以下の通りです。

【特徴】

  1. 1

    短時間で容易に設置可能な注入管を使用(写真1参照)
    樹脂製の注入管を鋼管内に収納し、小型の自走式バイブロドリルマシンを用いて、注入管1本あたり(10mの場合)約30~60分で地盤に設置可能です。

  2. 2

    独自開発の溶液状の浄化材を供給し、浄化を促進
    浄化菌を短時間で活性化させる、当社独自に開発した浄化材「TM-BioQuick※1」を含む菌液を注入管から連続的または断続的に供給し、バリアゾーンにおいて汚染物質の分解を活性化させ、浄化を促進できます。また、地中の浄化菌が少ない場合には、浄化初期に当社保有の浄化菌「デハロコッコイデス属細菌UCH007株※2」を含む菌液を注入管から供給することも可能です。

  3. 3

    地上設備をコンパクト化し、狭隘な場所でも施工可能
    本技術では、バリアゾーンの地盤特性に応じて注入管の設置間隔を調整し、高濃度の浄化材を少量ずつ供給することで、浄化材をバリアゾーン全体に満遍なく浸透させることできます。注入管から供給する浄化材の液量を減らせるため、大型の送液ポンプや貯留タンクが不要となり、地上設備をコンパクト化でき、狭隘な敷地境界周辺で拡散防止技術を適用することが可能です。

【実証試験結果】(図3参照)
塩素化エチレン類で汚染された実際の地盤に注入管を約0.5mピッチで3本設置して実証試験を行いました。注入管から0.4m下流の観測井戸でモニタリングを行った結果、デハロコッコイデス属細菌を注入後40日経過時点で菌数が約1万倍増加して地盤中にバリアゾーンが形成され、浄化材注入から90日目以降には塩素化エチレン類濃度が基準値以下まで低下したことを確認しました。

 今後、当社は、塩素化エチレン類で汚染され、敷地外への拡散が懸念されるような、特に狭隘な敷地境界など地下水汚染サイトを対象に、本技術を適用してまいります。

図1 溶液状の浄化材を用いる「T-SoilReme-Biobarrier」の概念図
図1 溶液状の浄化材を用いる「T-SoilReme-Biobarrier」の概念図
写真1 注入管の設置状況
写真1 注入管の設置状況
図2 狭隘な場所での浄化設備の設置状況
図2 狭隘な場所での浄化設備の設置状況
図3 実証試験における地下水中の塩素化エチレン類濃度および浄化菌数の推移
図3 実証試験における地下水中の塩素化エチレン類濃度および浄化菌数の推移
  1. ※1

    TM-BioQuick:有用菌を迅速に増やす効果があるホップ成分を含むビール酵母エキスを配合した液状の即効性浄化材。可溶性で帯水層に容易に注入することが可能であり、地下水中のpHを中性域に保つ成分も配合しているため、浄化菌の増殖を短時間で促進。

  2. ※2

    デハロコッコイデス属細菌UCH007株:水素を電子供与体として塩素化エチレン類の塩素と水素を置換することにより増殖可能な特殊な嫌気性細菌。当社と製品評価技術基盤機構が独自に発見・保有しているデハロコッコイデス属細菌UCH007株は、汚染地下水に導入することにより塩素化エチレン類を完全に脱塩素化できることが確認されており、国が定める指針「微生物によるバイオレメディエーション利用指針」の適合確認を受けている安全な細菌。