希少植物キンランの新たな保全手法を開発

生育適地以外にも移植先を拡大でき、より確実な保全が可能

2022年9月9日
大成建設株式会社

 大成建設株式会社(社長:相川善郎)は、希少植物であるキンランを生育に適さない場所にも移植できる新たな保全手法を開発しました。本手法により生息域外であってもキンランの移植が可能となり、移植にかかる選択肢が拡大するため、希少種の自然環境下におけるより確実な保全の促進につなげることができます。

 キンランは環境省レッドリストで絶滅危惧種に指定されており、環境アセスメント対象事業等において保全対象となることが多く、建設工事の際、保全を求められる頻度の高い植物です。しかし、キンランが栄養分を得るためには、コナラ等の樹木とその根に付く特定の菌根菌※1による三者共生環境※2が成立する生育地が必要となるため、キンランは移植が困難とされてきました。従来の保全では既に三者共生環境が成立している別のキンランが生育している場所を探し、そこに移植することが一般的でしたが、このような方法では生育地自体の面積の減少は避けられず、保全の効果は低いとされています。

 そこで当社は、キンランと共生関係にある樹木の成木そのものではなく、同じ菌根菌を持つ可能性が高い幼木に着目し、その幼木でキンランを取り囲むように「寄せ植え」を行い、三者共生環境を創出する新たな保全手法を開発し、圃場実験により三社共生環境の創出を確認しました。

 本手法の特長、検証結果は以下のとおりです。(図1・2、写真1・2参照)

  1. 1

    簡易な手法で希少植物の保全が可能
    本手法は、キンランの生育に必要となる樹木と同一の菌根菌を持ち、移植が容易な幼木(3株以上)をキンラン周辺に寄せ植えするだけの簡易な方法により、特定の菌根菌を人工的ではなく自然環境下で繁殖させ、共生関係を築き保全を行います。

  2. 2

    圃場実験により三者共生環境の創出を実証
    キンランの生育適地ではない草地を圃場とし、この手法で幼木を用いて寄せ植えを実施した実験では、遺伝子解析により幼木およびキンランから多様な菌根菌が確認されました。その中には、キンランの生育に必要とされる共通の菌種も確認され、これにより、いままではキンランの生育地とされなかった草地においても、三者共生環境の創出が可能であることが実証できました。

 本手法は、キンラン以外の三者共生環境を必要とする植物への適用や、種子の播種による保全にも適用できる可能性があると考えられます。今後、当社は、希少植物の保全などが求められる事業において、本手法を積極的に提案・適用し、生物多様性に配慮した豊かな社会の実現を目指してまいります。

  1. ※1

    菌根菌:植物の根に共生する菌類のこと。菌根菌は土壌から吸収した養分を樹木に渡し、樹木からは光合成の産物である炭水化物をもらうことで共生する。

  2. ※2

    三者共生環境:コナラ等の樹木、菌根菌、キンランなどのラン科植物の三者が地中部でつながり、光合成産物、無機養分等をやりとりする関係が成立する環境のこと。

図1 寄せ植えの配置
図1 寄せ植えの配置
図2 本手法の概要
図2 本手法の概要
写真1 実験圃場(草地環境)
写真1 実験圃場(草地環境)
写真2 キンラン
写真2 キンラン