河川工事の出水警報システム「T-iAlert® River」の機能を拡張

AIを活用した24時間先までの水位予測により安全な退避計画を実現

2022年8月24日
大成建設株式会社

 大成建設株式会社(社長:相川善郎)は、河川工事において、急激な水位上昇を予測し出水が懸念される際、警報を配信する出水警報システム「T-iAlert River」に新たな機能を追加しました。本機能は、過去の天気実況や予報に基づき、AIを活用して24時間先までの河川水位を予測するもので、これにより、従来の予測より早い段階から施工現場やその周辺流域の出水に対応でき、人員や建設機械・資材などのより安全で計画的な退避が可能となります。

 近年、地球温暖化の影響により、河川流域では大雨に伴う出水被害が多発しており、国土交通省は河川周辺の住民等を対象に6時間先までの河川水位の予測に関する情報※1を提供しています。また、当社においては河川工事を対象に、12時間程度先の河川水位を予測して出水警報を配信するシステム「T-iAlert River」※2を2008年に開発し、これまで10件以上の河川工事で出水時の避難計画立案などの安全管理に活用しています。(図1参照)
 しかし、退避時間に余裕をもった避難計画を立案するには、河川水位の上昇・下降の発生時期をより早期に把握した上で、建設機械・資材の退避を判断する必要があり、また、従来の「T-iAlert River」では、近隣河川にある複数観測所での水位データが必要で、対象流域周辺に観測所がない場合には水位予測が困難となっていました。
 そこで当社は、これらの課題を解決するため、観測所の水位データを使用せずに、雨雲画像を用いてAIにより24時間先までの河川水位を予測する機能を「T-iAlert River」に追加しました。

 本システムの予測手順と適用効果は以下のとおりです。
【予測手順】(図2、図3参照)

  • 全国の雨雲画像を利用して過去の天気実況を基に、予測地点での「雨雲画像」(現在を起点とする前後24時間分=合計48時間分)を抽出
  • 上記の雨雲画像とその時間帯に工事地点で計測された「河川水位」(現在を起点とした1~24時間後)を併せてデータベース化し、これらに基づき約7万ケースについてAIで深層学習を実施
  • 予測地点における天気実況および天気予報に基づき、現在を起点とする前後24時間分の雨雲の変化と類似した「雨雲画像」を深層学習の結果から抽出し、併せて学習した河川水位データを基に1~24時間先までの水位予測結果として表示・出力

【適用効果】

  1. 1

    予測地点近傍に観測所がなくても水位予測が可能
    河川の大小を問わず、予測地点での天気予報による雨雲画像から24時間先の河川水位を予測できるため、近傍に観測所がなくても水位予測が可能となります。

  2. 2

    人員や建設機械・資材などの早期退避が可能
    24時間先までの河川水位を予測し、危険水位に到達する時刻を早期に把握できるため、従来の「T-iAlert River」よりもさらに早期に人員や建設機械・資材などを退避させることができます。

  3. 3

    出水に伴う工程遅延の抑制が可能
    河川水位の上昇・下降の傾向を早期に把握し、出水後の復旧タイミングを見越して工事再開に向けた準備や作業に早い段階から着手できるため、出水に伴う工程の遅延を最低限に抑えることが可能となります。

 今後、当社は対象河川流域で生じる豪雨や出水から、より安全に人員や建設機械・資材などを守るため、従来の「T-iAlert River」を用いた予測方法との併用により予測精度を高めながら、土木・建築工事を問わず本システムを積極的に提案してまいります。

図1 T-iAlert Riverの概要
図1 T-iAlert Riverの概要
図2 予測手順
図2 予測手順
図3 1~24時間先までの水位予測例(予測水位と実測水位の比較)
図3 1~24時間先までの水位予測例(予測水位と実測水位の比較)
  1. ※1

    6時間先河川水位予測情報:
    国土交通省は、河川周辺の住民等が安全に避難できるよう、国の出水予報の発表の基準となる水位観測所を対象に6時間先までの水位予測情報を提供

  2. ※2

    T-iAlert® River:
    当社が2008年に独自開発し、施工現場の河川水位を予測して出水警報を配信するシステムで、流域の降水量データから河川流量を解析する方法や、水位観測所間の水位の相関式から下流(現場)での水位を予測する方法を用いて12時間程度先の工事現場の河川水位を予測することが可能。避難計画の立案などこれまで10件以上の河川工事の安全管理に活用