透過性地下水浄化壁工法「マルチバリア®」の長期耐久性を検証
汚染地下水に対する浄化機能維持を確認し、耐久性予測精度を向上
2022年3月23日
大成建設株式会社
大成建設株式会社(社長:相川善郎)は、揮発性有機塩素化合物(以下、CVOCs※1)を対象とした汚染地下水拡散防止技術である透過性地下水浄化壁工法「マルチバリア」について、設置から15年以上経過した適用サイトで長期耐久性の検証を行いました。その結果、現在でも浄化効果が継続されていることと、更に10年以上の浄化機能維持が見込めることを確認しました。今後、設置されたマルチバリアの実測データを増やし耐久性予測精度の向上を図ります。
電子部品や金属部品などの洗浄に使われていたCVOCsで汚染された地下水の拡散防止対策では、地下水を地上に汲み上げて水処理施設で汚染物質を除去した清浄な処理水を下水道等へ放流する技術「揚水バリア」が従来から多用されてきました。しかし、この技術は揚水した汚染地下水を継続して浄化処理しなければならず、維持管理を毎日行う必要があるため、運用・維持管理コストが膨大になるなどの課題がありました。
そこで当社は、汚染物質を吸着・分解する浄化材を用いて地下に透過壁を作り、汚染地下水を浄化する技術として「マルチバリア」(図1、表1参照)を開発し、土壌汚染対策法※2が施行される以前の1997年に、国内で初めて電子部品工場の汚染地下水拡散防止工事に対して適用してきました。それ以来、様々な物質により汚染された地下水の浄化対策工事を実施してきており、これまでに約70件の実績を積み重ねてきました。
そしてこの度、竣工から15年以上経過した上記工事のマルチバリアに対して、浄化材に用いた特殊鉄粉を回収・評価した結果、下記のとおり、マルチバリアの長期耐久性について新たな知見が得られました。
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長期耐久性を検証し、さらなる浄化機能維持を確認(写真1参照)
マルチバリアの耐久性に関する当初設計では、長期室内試験を基に約20年の浄化機能維持を見込んでいましたが、今回の検証を通じて、竣工から15年以上経過した浄化壁でも汚染物質を吸着・分解する性能が十分に残存し、CVOCs濃度を地下水環境基準以下まで低下できる機能を維持していることを確認しました。この結果より、今後さらに10年以上の浄化機能維持を見込むことができました。 - 2
適用実績を用いて耐久性予測精度を向上
これまで国内外では浄化壁の耐久性に関する実測データはほとんどなく、従来のマルチバリアの設計では、対象サイトごとに行う適合性試験や長期室内試験に基づいた耐久性予測結果を用いてきました。今回実施した長期耐久性の評価から、施工後のサイトにおける浄化壁の機能維持状況が把握でき、耐久性予測精度の向上が可能となります。
今後、当社は、今回の追跡調査により得られたデータから長期耐久性の予測精度を向上させ、既に開発済みである浄化機能を回復させるメンテナンス技術と併せて、マルチバリアによる汚染地下水拡散防止技術のさらなる信頼性向上に取り組んでまいります。
表1 マルチバリアと揚水バリアの処理方法比較
マルチバリア |
揚水バリア |
|
施工法 |
地中に浄化材を含んだ透水性の浄化壁を施工 |
汚染水を汲み上げる井戸を列状に施工 |
浄化方法 |
汚染地下水が浄化材に接触して、汚染物質を吸着・分解 |
汲み上げた汚染水を、水処理施設で除去 |
維持管理 |
浄化効果が無くなるまで不要 |
継続して浄化処理が必要 |
維持管理の頻度 | 15~20年毎に更新 | 毎日 |
対策コスト |
メンテナンスフリーのため、ランニングコストが少なく、5〜6年程度でライフサイクルコストが逆転 | メンテナンス費用が永続的に積み重なるため、ランニングコストが多くなり、ライフサイクルコストが増加 |
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CVOCs:
揮発性有機塩素化合物(Chlorinated Volatile Organic Compounds)の略。トリクロロエチレン等に代表される化合物群で、各種溶媒や洗浄剤として工業利用されてきた経緯があるが、有害性が確認されたため環境規制物質に指定されている。 - ※2
土壌汚染対策法:
2003年2月に施行され、土壌汚染状況の把握、土壌汚染による人の健康被害の防止に関する措置等を実施し、国民の健康を保護することを目的とした法律。