建築部材の遮音性能を計測可能な「音響のラボ」の運用を開始
「JIS・ISO規格」および「斜め入射」に対応した3種類の遮音実験室を新設
2022年3月8日
大成建設株式会社
大成建設株式会社(社長:相川善郎)は、技術センター(横浜市戸塚区)の音響実験棟「音響のラボ」を改修し、2022年1月より運用を開始しました。本実験棟には、「JIS・ISO規格」に準拠した2つの遮音実験室に加え、試験体周囲を半球状に移動する業界初のスピーカー移動装置や試験体に入射する音の強さを自動計測するマイクロホンアレー装置を備えた「斜め入射」に対応する遮音実験室が装備され、様々な音の入射条件で建築部材の遮音性能を評価することが可能となります。この3種類の実験室の運用により、既存の「風音のラボ」、「音と電磁のラボ」と併せて、建物に関わるあらゆる音の問題に対応できる環境が整いました。
新設した3種類の遮音実験室の特徴(表1、写真1参照)
建物の設計では、室内の静穏性を確保するため部材毎の遮音性能※1の評価が重要となります。新設した3種類の実験室は、音の入射条件(方向)や対象とする部材によって使い分けができます。いずれも音源室から発生させた音に対して、壁材や床材などの建築部材を透過して受音室に入る音のレベルを測定し、部材の遮音性能を算出します。
各遮音実験室の仕様と特徴は以下のとおりです。
JIS・ISO規格に準拠した遮音実験室の概要(写真2、3参照)
JIS・ISO遮音実験室では、集合住宅やホテル、オフィスなどに使用される界壁※6などの建築部材に対して、様々な方向から音が同時に入射する場合の遮音実験だけでなく、建築内装材の吸音率測定や木造床の床衝撃音実験、配管系の設備固体音の実験も可能です。
斜め入射遮音実験室の概要(図1、写真4参照)
例えば、地上の鉄道軌道に隣接する高層建物高層階の外装材※7に入射する鉄道からの騒音は、様々な方向から音が同時に入射する場合とは異なり、一方向からの斜め入射となり、従来のJIS・ISO規格に準拠した遮音実験室で得られる遮音性能値とは異なる値を示すため、同様の入射条件により建築部材の遮音性能を評価する必要があります。
「斜め入射遮音実験室」では、無響室※3を音源室とし、様々な入射角度における斜め入射遮音実験を効率的に行うために、業界初となるリモートコントロールで半球状に移動するスピーカーや上下・左右に移動するMEMSマイクロホンアレーを装備しています。
「音響のラボ」の設計・施工、構造に導入された技術(表2参照)
また、「音響のラボ」の設計、施工にあたっては、当社が開発した以下の先端技術を導入することで、建築生産プロセスを合理化させ、環境にも最大限配慮した建物となっています。
今後、当社は、集合住宅、ホテル、オフィス、工場、劇場、コンサートホールなど、遮音や音の響きが重要となる建物に使用される高遮音建材や吸音材の開発、外装材や建具の斜め入射遮音性能の評価等、建築構造物のあらゆる「音」に関わる検討に、「音響のラボ」を中心として「風音のラボ」、「音と電磁のラボ」の各実験棟を、積極的に活用して参ります。
- ※1
遮音性能:空気中を伝わってくる音を建築部材が遮断する性能。
- ※2
残響室:全ての床・壁・天井が反射材料で仕上げられている実験室。反射音があらゆる方向から到達するように壁や天井の傾きの変更や反射板を設置する。
- ※3
無響室:全ての床・壁・天井が高性能の吸音材料で仕上げられている反射音がほとんどない実験室。
- ※4
音響入射パワー:試験体表面のみに入射する音のパワー。
- ※5
MEMSマイクロホンアレー:主に携帯電話などで使用されている超小型のマイクロホンを複数台配置し、音源の方向を考慮した測定が可能なシステム。
- ※6
界壁:マンション等の集合住宅で各住戸の間を区切る壁で、壁の遮音性能基準が建築基準法によって定められている。
- ※7
外装材:建物の外側に設置される材料の総称であり、ここでは、主にカーテンウォールやサッシのガラス、外装パネルの鋼板、ALCや押出成形セメント板などが対象となる。