脱炭素に寄与するエネルギー生産型の下水処理技術を開発

下水からメタンを効率的・安定的に生成可能な処理施設の構築を目指す

2021年11月9日
大成建設株式会社

 大成建設株式会社(社長:相川善郎)は、嫌気処理※1と膜分離技術※2を組み合わせた嫌気MBR(Membrane Bio Reactor)※3を用いて、下水から発電などに活用できるメタンを生成して脱炭素に寄与するエネルギー生産型の下水処理技術を開発し、ラボスケール実験によりその効果を確認しました。本技術の適用により、短期間で安定したメタン生成が可能となるだけでなく、メタン生成量を増加させることで、下水処理における消費エネルギー削減と創エネルギー※4の生成を効率的、安定的に実施でき、エネルギー収支の大幅な改善が見込めることから、新たな下水処理施設の構築が期待されます。

 現在、国内の下水処理場の多くでは、活性汚泥法と呼ばれる好気処理※5による水処理が導入されており、短時間で法的な排水基準を満たす良好な処理水質を得ることが可能です。しかし、この技術では処理後に余剰汚泥が大量に発生し、また水処理に必要な酸素を常に処理槽に供給しなければならないため、下水処理全体に費やす消費エネルギーの約半分を消費電力が占め※6、下水処理における大きな課題となっていました。
 一方、酸素供給が不要で余剰汚泥量も少ない省エネルギーな嫌気処理技術もありますが、この技術は良好な処理水質の確保が困難なことから、活性汚泥法に替わるような処理プロセスとして確立されていませんでした。
 そこで当社は、嫌気処理と膜分離技術を組み合わせることで、下水処理での消費エネルギー削減と創エネルギー生成の両立が期待できる嫌気MBRに着目しました。嫌気MBRによる処理の初期過程で発生するバイオガス(メタンと二酸化炭素から構成)を処理槽内で循環運転させ、さらに微生物の有機物分解能力を促進させる鉱物の添加により、安定した下水処理と同時に、効率的かつ安定的なメタン生成を可能としました。

 本技術の特徴およびエネルギー収支の試算結果は以下の通りです。

【特徴】

  1. 1

    バイオガス循環によりメタン生成を安定化
    嫌気MBRで発生したバイオガスを処理槽内で循環させることで、処理槽内に対流が発生し、処理槽の微生物と下水に含まれる有機物の接触効率が促進されます。これにより、メタン生成の立ち上がりが早まるとともに、安定化が図れます。(図1参照)

    図1 バイオガス循環によるメタン生成立ち上げ効果
    図1 バイオガス循環によるメタン生成立ち上げ効果
  2. 2

    鉱物添加によりメタン生成量を向上
    微生物による有機物分解を高める鉱物を添加することで分解が活性化し、メタン生成量を最大20%増加させることが可能となります。(図2参照)

    図2 鉱物添加によるメタン生成量の増加
    図2 鉱物添加によるメタン生成量の増加

【エネルギー収支試算結果】

 10,000m3/日の下水処理を想定し活性汚泥法と本技術で処理した場合のエネルギー収支の試算により、本技術は消費エネルギーを約30%削減でき、さらに消費エネルギーを大きく上回る創エネルギーの生成が可能であることがわかりました。この結果、下水処理に伴うCO2排出量削減への貢献やエネルギー自立が可能な生産型の下水処理施設の構築が期待されます。(表1参照)

表1 活性汚泥法と嫌気MBRによるエネルギー収支ケーススタディ比較(下水処理量10,000m3/日)
表1 活性汚泥法と嫌気MBRによるエネルギー収支ケーススタディ比較(下水処理量10,000m<sup>3</sup>/日)
  • 活性汚泥法の消費エネルギー量を1とした場合の嫌気MBRの消費・創エネルギー量を示す
  • 生成したメタンはガスエンジンを通して電気及び熱に変換される

 今後、当社は、下水処理場における検証を行い、本技術をエネルギー生産型の下水処理技術として確立してまいります。また、高濃度の有機性排水や廃棄物が発生する食品工場等にも展開を図ることで、2050年のカーボンニュートラル社会の実現に向けて貢献してまいります。

    1. ※1

      嫌気処理:
      酸素の無い嫌気条件下で複数種の嫌気性細菌の代謝作用により有機性排水・廃棄物等に含まれる有機物をバイオガス(メタンと二酸化炭素で構成)に変換する手法。

    2. ※2

      膜分離技術:
      膜を活用し、水と固形分を分離させる手法。

    3. ※3

      嫌気MBR:
      嫌気処理と膜分離技術を組み合わせたプロセスであり、分離膜を使用することで分解に必要な微生物を高濃度に保持することや処理した水質の向上が可能になる。

    4. ※4

      創エネルギー:
      嫌気MBRによる処理で発生したバイオガスはガスエンジンを通して電気と熱に変換される。

    5. ※5

      好気処理:
      酸素のある条件下で増殖する微生物に有機物を分解させて水を浄化する手法。酸素が必要なため、排水に空気を送り込むためのポンプを動かす電気が大量に必要、微生物(汚泥)が大量に発生するといった課題がある。

    6. ※6

      『平成28年3月下水道における地球温暖化対策マニュアル 環境省・国土交通省』より