コンクリートひび割れ画像解析技術「t.WAVEⓇ」にAI自動検出機能を追加

ひび割れの検出を高速化し、点検作業の時間短縮と費用の削減を実現

2021年3月25日
大成建設株式会社

 大成建設株式会社(社長:相川善郎)は、コンクリートひび割れ画像解析技術「t.WAVE (ティー・ドット・ウェーブ)」(以下、t.WAVE)に、AIを用いたひび割れ自動検出機能を付加しました。本機能により、ひび割れ点検にかかる作業時間の短縮と費用の削減を実現しました。

 国内で供用中の道路橋やトンネルなどの鉄筋コンクリート造インフラ構造物は、既に50年以上経過しているものが多数存在し、老朽化が懸念されています。国土交通省では、2014年より老朽化したインフラ構造物に対して、法令による定期点検を施設管理者に義務化しており、点検時において経年劣化に伴うひび割れの有無や幅・長さなどの状況確認を行う必要があります。従来、これらの構造物の点検は、ほとんどが点検員による近接目視で実施していましたが、高所では足場や高所作業車などを使用し、また構造物の躯体表面に沿うように点検するため、仮設設備の設置・準備、点検、撮影および結果の図化などに多大な時間と費用を要していました。

 そこで当社は、2008年にデジタル撮影した画像処理に国内で最初にウェーブレット変換※1を用いて、コンクリート構造物のひび割れ画像を解析・評価する技術「t.WAVE」を開発し、これまで30件以上のインフラ構造物の点検業務に活用してきました。また、本技術は、2014年から2018年まで内閣府主管の戦略的イノベーション創造プログラムSIP※2に採択され、ドローン撮影画像への対応などの機能拡張と実用性の向上に取り組んできました。そして今回、本技術の有用性をさらに向上させるため、AIによるひび割れの自動検出機能を付与して実証を行った結果、人による目視作業を無くすことで、ひび割れ点検作業の時間短縮と費用の削減を実現しました。

 本技術の特徴は以下のとおりです。

        1. 1

          AI活用によりひび割れの検出、トレースを自動化。点検にかかわる作業時間と費用を削減(図1参照)
          これまで人が画像を見ながらひび割れを判別し、トレース作業を行っていましたが、AIを活用することで、それらの作業が自動化され、ひび割れ点検作業にかかる時間と費用の削減が図れます。高架橋橋脚を対象とした実証の結果、ひび割れの検出精度※3は80%以上で、ひび割れ検出のトレース作業時間※4を90%程度低減でき、目視点検に対する費用※5を50%削減することができました。

          図1 点検時間および費用の効果比較
          図1 点検時間および費用の効果比較
          写真1 AIによる高架橋橋脚のひび割れ自動検出結果例
          写真1 AIによる高架橋橋脚のひび割れ自動検出結果例
        2. 2

          ひび割れ状況を高精度に数値化・色彩化し、定量評価が可能(写真2参照)
          検出したひび割れの幅や長さを画像解析により高精度に数値化して、経年劣化の進行状態の把握に必要なひび割れ密度※6などを色彩化することで、定量的な評価が可能となります。

          写真2 t.WAVE によるコンクリートのひび割れ画像解析結果例
          写真2 t.WAVEによるコンクリートのひび割れ画像解析結果例

 今後、当社は、コンクリート構造物の維持管理業務をさらに正確かつ迅速、安価に実施できるよう、AIの活用拡大を進め、コンクリート構造物のひび割れ点検技術の普及を通して、老朽化したインフラ構造物の長寿命化の実現に寄与してまいります。

    1. ※1

      ウェーブレット変換:
      画像の中にある線状の特徴範囲を抽出するのに適した画像解析技術。ひび割れの幅や長さを定量的に評価することが可能な手法。

    2. ※2

      SIP(Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program):
      内閣府が主管する戦略的イノベーション創造プログラムの略称。国の府省や分野を超えた横断型の研究開発プログラムを示し、第1期は平成26~30年度の5か年で実施。

    3. ※3

      ひび割れの検出精度:
      従来のt.WAVEで人が画像上で判別してトレースしたひび割れに対して、今回開発したAIで自動検出したひび割れが一致する割合。

    4. ※4

      ひび割れ検出のトレース作業時間の低減:
      t.WAVEで人が画像上でひび割れを判別してトレースしていた時間に対して、今回開発したAIで自動検出する時間への低減値。

    5. ※5

      目視点検に対する費用の削減:
      t.WAVEを使わない従来の近接目視による点検に要する費用に対して、現地での画像撮影から屋内での今回開発したAIによるひび割れ自動検出、画像解析、ひび割れ図の作図までの一連の作業を実施した費用への削減値。

    6. ※6

      ひび割れ密度:
      コンクリート表面の1m角の範囲内にあるひび割れの総延長。コンクリート構造物の劣化の程度を知るための指標のひとつ。

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