LPWA無線通信技術を活用したトンネル坑内計測システム「T-RIPPA」を開発

通信ケーブル不要な長距離通信により計測作業を省力化

2020年10月29日
大成建設株式会社

 大成建設株式会社(代表取締役社長:相川善郎)は、山岳トンネル工事における坑内での計測作業の省力化を図るため、通信ケーブルを使用せず長距離通信が可能なLPWA無線通信技術(LPWA※1:Low Power Wide Area)を用いたトンネル坑内計測システム「T-RIPPA」を開発しました。またこの度、当社が施工する国内道路トンネル工事現場で、本システムを用いてデータ計測状況を検証し、計測作業の大幅な省力化による生産性向上が可能であることを確認しました。

 山岳トンネル工事では安全かつ確実に施工するため、掘削後のトンネル変形の有無やトンネルを保持する掘削面周辺の岩盤状況を詳しく把握することが重要となります。そのため工事を進めていく過程では随時計測作業を行い、そこで得られたデータを基に、トンネル工事における適切な掘削方法や補強部材を選定しながら施工を行います。現状の計測作業はトンネルの工事進捗に合わせて通信機器の移設や増設などの盛替え作業が必要で、機器の設置、機器への電力供給・通信ケーブルの設置・保守、データ回収など、多くの時間と手間を要していました。また、近年では坑内Wi-FiやBluetoothによる無線を利用した計測も可能ですが、安定したデータ通信の可能な距離が数mから100m程度のため、トンネル延長が長くなると盛替え作業などが不可避でした。
 そこで当社は、上記課題を踏まえ、以下で示す特徴を有するトンネル坑内計測システム「T-RIPPA」を開発しました。

 本システムの特徴および実証結果は以下のとおりです。

【「T-RIPPA」の特徴 】(図1、図2参照)

  1. 1

    1km以上の長距離通信を実現
    LPWA無線通信により、1km以上の長距離のデータ伝送が可能となります。そのため、工事進捗にあわせた無線通信装置の移設や増設の回数を格段に低減できます。

  2. 2

    通信ケーブル不要の無線通信システムにより計測を省力化
    LPWA無線通信モジュールとアンテナを計測機器内部に組込み、小型電池で作動するため通信ケーブルがなくても安定したデータ計測が可能となります。また、通信ケーブルが不要となることで、ケーブル発破防護の手間もなくなるため、坑内計測作業を大幅に省力化できます。

  3. 3

    いつ、どこでも計測データを可視化して確認可能
    計測データは、無線データ受信装置を介してクラウドサーバに集約され、Webアプリ上に自動作成されたグラフがリアルタイムに確認でき、データのダウンロードも可能です。インターネット環境を整備すれば、現場や作業所から遠くはなれた地点でもパソコンやスマートフォンを用いて簡単にデータを情報共有することができます。

【実証結果】(写真1参照)
従来方式のトンネル天端傾斜計「TT-Monitor®※2に本システムを導入し、データ回収時における計測担当者の作業効率を検証した結果、データ回収から分析までの計測作業に要する時間が半分以下になりました。

 今後、当社は、本システムを山岳トンネル工事で行われる多くの計測作業に適用することで、現場での作業の省力化を図り、生産性向上を推進してまいります。

図1 本システムの概要(無線を活用した従来方式との比較)
図1 本システムの概要(無線を活用した従来方式との比較)
図2 Webアプリ上で計測データの可視化
図2 Webアプリ上で計測データの可視化
写真1 トンネル天端傾斜計「TT-Monitor」を用いた施工現場での本システムの実証状況
写真1 トンネル天端傾斜計「TT-Monitor」を用いた施工現場での本システムの実証状況
  1. ※1LPWA:低消費電力・長距離通信を特徴とする無線通信の総称。920MHz帯のISMバンドを使用し、20mW以下の低い送信電力でも1km以上の長距離を安定して通信可能な無線通信技術
  2. ※2

    TT-Monitor:トンネル掘削の進行に伴って生じるトンネル上部(天端)の微小傾斜を高精度MEMSセンサで捉え、その傾斜角のトレンド分析から切羽前方地山の評価を行う当社開発技術