塩素化エチレン類を無害化する細菌を用いた地下水浄化工程を効率化

大量培養・輸送・注入技術の確立により浄化期間を大幅短縮

2020年10月27日
大成建設株式会社

 大成建設株式会社(社長:相川善郎)は、環境省の受託実証試験※1において、塩素化エチレン類※2を無害なエチレンまで完全に浄化できる唯一の細菌「デハロコッコイデス属細菌UCH007株※3」(写真1参照)を大量培養した状態で輸送し、汚染帯水層に注入する技術を確立しました。これらの技術の適用により、有用な細菌を用いた浄化工程の効率化を図ることが可能となります。また、菌液を塩素化エチレン類による汚染サイトの帯水層に注入し、浄化効果を検証した結果、浄化期間を大幅に短縮できることを確認しました。

 現在、環境規制物質である塩素化エチレン類に汚染された地下水を原位置で浄化する技術として、浄化材を注入し、地盤中に生息している浄化菌“デハロコッコイデス属細菌”を増殖させて浄化する方法が実施されています。この場合、地盤中の有用な菌数が非常に少なく、増殖速度も遅いため、浄化期間は長期化することになります。一方、近年ではあらかじめ培養した上記の浄化菌を地下水中に注入することで浄化期間を短縮する方法も着目されています。しかし、浄化菌は空気に触れると死滅することから、厳密な管理下で菌液の大量培養、汚染サイトへの輸送、現地で汚染帯水層への注入に用いる専用装置・設備が必要となり、運用コストが高くなるという課題がありました。
 そこで、当社は、高い浄化性能を有するデハロコッコイデス属細菌UCH007株の菌液を専用密閉培養容器で大量培養し、容器ごと輸送を行い、嫌気環境のまま汚染帯水層に注入する一連の新たな浄化技術を確立し、この度の実証試験により、本浄化技術の実用性と浄化効果を検証しました。

 本技術の特徴および実証試験結果は以下の通りです。

【特徴】(図1参照)

  1. 1

    菌液を大量培養
    微生物培養のために密閉状態で嫌気環境を維持できる専用密閉培養容器※4を用いて菌液を容易に大量培養することができます。

  2. 2

    専用密閉培養容器ごと菌液を輸送
    大量培養した菌液を、性状を変えることなく嫌気環境を維持したまま、専用密閉培養容器ごと地下水汚染サイトまで車両などを用いて輸送することができます。

  3. 3

    嫌気環境を維持しながら菌液を注入
    当社が独自開発し、汚染サイトにあらかじめ設置された打ち込み式注入管※5を活用し、小型電動式窒素発生装置を用いて嫌気環境を維持しながら、1か所あたり約10分間で専用密閉培養容器から菌液を汚染帯水層に注入できます。

【実証試験結果】(図2参照)

 実証実験では塩素化エチレン類で汚染された区域を鋼矢板で囲み、デハロコッコイデス属細菌UCH007株と浄化材を供給する区画(菌導入区:2.6m2)と、浄化材のみを供給する区画(菌未導入区:2.6m2)の2区画において、各々5本の注入管を設置し、菌液と浄化材投入後、約4ケ月間に渡り検証を行いました。区画毎に帯水層から地下水を採取して塩素化エチレン類の濃度を計測し、その総量を比較した結果、菌導入区画では注入直後から塩素化エチレン類が大きく減少し、従来の方法に比べ浄化期間を実証試験では約2ヶ月間短縮できることを確認しました。

 今後、当社は、塩素化エチレン類で汚染され、短期間での浄化が求められるような地下水汚染サイトを対象に、原位置浄化技術として本技術を適用してまいります。

写真1 デハロコッコイデス属細菌UCH007株 電子顕微鏡写真
写真1 デハロコッコイデス属細菌UCH007株 電子顕微鏡写真
図1 塩素化エチレン類汚染地下水の本浄化菌による浄化手順
図1 塩素化エチレン類汚染地下水の本浄化菌による浄化手順
図2 実証試験における塩素化エチレン類総量の残存率推移
図2 実証試験における塩素化エチレン類総量の残存率推移
  1. ※1環境省の受託実証試験:環境省が公募する「平成30年度・令和元年度 低コスト・低負荷型土壌汚染調査対策技術検討調査」に選定され、実施したものです。
  2. ※2

    塩素化エチレン類:トリクロロエチレンやテトラクロロエチレンなど、エチレンに塩素を付加して合成した液体。トリクロロエチレンやテトラクロロエチレンは金属部品の洗浄剤や溶剤として広く使用されてきたが、有害性が確認されたため環境規制物質に指定されています。

  3. ※3

    デハロコッコイデス属細菌UCH007株:当社と製品評価技術基盤機構が独自に発見・保有している嫌気性脱塩素細菌(塩素化エチレン類の塩素を水素に置換することにより最終的に無害なエチレンまで浄化する特殊な細菌)です。本細菌は、UCH007株の増殖および浄化をサポートするスルフォロスフィラム属細菌UCH001株と共に国が定める指針「微生物によるバイオレメディエーション利用指針」の適合確認を受けている安全な細菌です。

  4. ※4

    専用密閉培養容器:製品評価技術基盤機構が開発した、密閉状態で嫌気環境を維持できる約20Lの微生物培養専用容器で、この容量に107cells/mL以上のUCH007株を約1ヶ月間で培養可能です。絶対嫌気性細菌であるUCH007株は、空気(酸素)に触れると死滅してしまうため、専用培養容器ごと輸送し、汚染帯水層に注入するまでに空気に触れない状態で扱う必要があります。培養を行う際には、デハロコッコイデス属細菌UCH007株とスルフォロスフィラム属細菌UCH001株の2種類の細菌で共培養した菌液を浄化に使用します。

  5. ※5

    打ち込み式注入管:小型の自走式バイブロドリルを用いて打設することが可能なスリットを有する鋼管。従来の注入管と比較して打設速度が速く、特殊加工のスリットが打設時の土砂の侵入を防ぎ設置直後に菌液を注入することが可能です。 従来の削孔が必要な注入管と比較して、10倍以上の速さで注入管を設置することが可能です。