AIを用いた地震観測データ自動処理システムを開発

建物の耐震性能評価に必要なデータを短期間で提供

2020年9月14日
大成建設株式会社

 大成建設株式会社(社長:相川善郎)は、AIを活用して、地震の観測データに含まれる「ノイズ」を除去し、地震初期の上下方向の小さな揺れを発生させる“P波”と、その後の横方向の大きな揺れを引き起こすS波”を自動抽出する技術を開発しました。これにより、地震動分析に掛かる労力やコストの低減が図れ、建物の耐震性能評価に必要なデータを従来の半分程度の期間とコストで提供することが可能となります。

 大型発電所施設などの重要構造物では、地震による施設内の設備機器への影響や建物の健全性を把握するため、一定程度の地震が発生した都度、同規模の地震が重要構造物付近で発生したと仮定し、耐震性能評価を迅速に実施することが施設管理者等に求められます。耐震性能評価では全国に高密度に配置されている地震計の観測データを用いますが、この中には地震動以外にも地震計の機械的なノイズや地震計周辺の交通振動、工事等にかかる揺れから発生するノイズが含まれています。これらノイズを含むデータは耐震性能評価の精度を低下させる原因となるため、ノイズ除去が必要です。これまではすべて目視確認による手作業で行われており、多大な労力と時間を要していました。
 そこで、当社は地震観測データからノイズを判別・除去する処理方法をAIに学習させ、短期間で耐震性評価に必要なデータを自動抽出する技術を開発しました。

 本技術の特徴は以下のとおりです。

  1. 1

    高精度にノイズを判別・除去することが可能
    AIを用いて、以下の作業を目視とほぼ同等の精度で行うことが可能です。
    ・地震動の大きさを示す観測データの波形図からノイズの有無を判別。
    ・波形を地震の周波数毎に分解し地震動の大きさと周波数との特性を示した図
    (フーリエスペクトル)から自動的にノイズ成分を含む周波数を推定して除去。

  2. 2

    P波、S波を独自のアルゴリズムにより自動的に分離
    地震波の到達時刻を推定する手法(カルバック・ライブラー情報量※1)と地震波の振動方向を抽出する手法(偏向解析※2)を組み合わせた独自のアルゴリズムにより、P波・S波を分離することが可能となり、従来目視で実施していた地震波抽出作業を自動化することができます。

  3. 3

    短期間で耐震性能評価に必要なデータ提供が可能
    これまで手作業で行っていた、観測記録の入手からノイズの判別・除去、P波およびS波の分離までをすべて自動化し、従来の約1/2の作業期間とコストで耐震性能評価に必要なデータを提供することができます。

 今後、当社は、建物の耐震診断などに本技術を積極的に適用するとともに、AIを用いた地震観測データの学習記録を蓄積し、ノイズ成分を含む周波数帯の推定精度を更に向上させ、建物の耐震性能評価の迅速化を進めてまいります。

図-1 地震観測データ自動処理システムのフロー
図-1 地震観測データ自動処理システムのフロー
図-2 地震波自動処理の状況
図-2 地震波自動処理の状況
  1. ※1カルバック・ライブラー情報量:
    2つの確率分布の違いを示す尺度。地震記録のP波が到達する前の微動部分とP波、S波が到達した時の振幅の頻度分布の違いから到達時刻を推定する。
  2. ※2

    偏向解析:
    特定の向きの波を抽出する解析。P波とS波の振動方向は異なるため、各々の方向の波を抽出することで、特徴を際立たせることが可能。