トンネル前方の湧水測定技術「T-DrillPacker」を開発

孔壁崩壊リスクを回避し、測定時間を低減

2020年7月16日
大成建設株式会社

 大成建設株式会社(社長:相川善郎)は、大量湧水の発生が予測される山岳トンネル工事において、調査ボーリング削孔中に遭遇した湧水帯の湧水量と水圧を安全かつ効率的に測定する技術「T-DrillPacker」を開発しました。本技術の適用により調査ボーリング削孔時の湧水測定において、孔壁崩壊のリスクを回避し、測定時間を低減でき、また、ボーリング削孔を継続しながら湧水帯の状況を把握できることから、より的確な湧水対策の立案が可能となります。

 山岳トンネル工事では、施工中に大量の湧水が発生すると、トンネル切羽の崩壊や坑内の水没などが生じる危険性があり、工事の安全や工期・工費に重大な影響を及ぼすことがあります。そのため、湧水が予め想定されるトンネル工事を施工する際は調査ボーリングを行い、前方に存在する複数の湧水帯の位置や湧水量・水圧を確実に把握し、事前の湧水対策を行う必要があります。従来、ボーリング削孔中の湧水測定では、削孔管の引き抜き後、パッカーと呼ばれる袋状の部材を先端部分まで挿入し、膨張させて止水することで、湧水帯の状況を計測する必要がありました。(図1参照)また、削孔を継続する場合には、測定後にパッカーを引き抜き、再度削孔管を挿入し、ボーリング作業を行っていました。しかし、これらの作業は時間を要し、削孔管の引抜き時に孔壁崩壊などのリスクを伴うため、特に掘進長の長いボーリングでは施工が困難な場合がありました。

 そこで、当社は、ボーリング削孔中に湧水帯に遭遇した場合、削孔管を引き抜くことなくパッカーを挿入し、ボーリング先端の湧水量と水圧を測定できる新たな技術「T- DrillPacker」を開発し、現場試験にて本技術の有効性を確認しました。

 本システムを用いた湧水測定時の施工手順は以下のとおりです。(図1参照)

【施工手順】

  • ボーリング削孔
    外側にアウタービット、内側にインナービットを備えた二重ビット(写真1参照)をボーリング削孔管の先端に装着し、回転させながら地山を掘削。
  • インナービット回収
    湧水帯に遭遇した場合、削孔管からインナービットだけを引き抜いて回収。
  • パッカーの挿入
    ボーリング削孔管を湧水帯の手前まで後退させ、インナービットを引き抜いた削孔管内に湧水圧測定用の大口径まで拡張するパッカー(直径初期40mmから110mmまで拡張可能)を挿入。(写真2参照)
  • 湧水量・水圧測定
    削孔管を引き抜くことなく、アウタービット先端にパッカーを突き出し拡張させ、孔壁に密着させた状態で湧水量・水圧を測定。
図1 ボーリング削孔途中の湧水測定方法の比較(従来と本技術「T-DrillPacker」では赤枠部分の工程が異なる)
図1 ボーリング削孔途中の湧水測定方法の比較
(従来と本技術「T-DrillPacker」では赤枠部分の工程が異なる)
写真1 二重ビット
写真1 二重ビット
写真2 湧水圧測定用パッカー
写真2 湧水圧測定用パッカー

【主な特徴】

  1. 1

    孔壁崩壊のリスクを回避
    削孔途中に削孔管の引き抜きが不要なことから、既削孔区間での孔壁崩壊などのリスクを回避し、確実に湧水状況を測定できます。

  2. 2

    湧水量・水圧を迅速に測定
    ボーリング削孔途中でインナービット回収とパッカー挿入を迅速に行えることから、従来のように削孔管を全て引き抜く方式と比べ測定に要する時間を20%低減し、ボーリング先端の湧水帯での湧水量・水圧を迅速に測定できます。

  3. 3

    繰り返し測定が可能
    測定完了後、パッカーを収縮・引き抜き、インナービットを水圧により先端部まで圧送して削孔管内に再設置することで容易に削孔を継続でき、その後も削孔中に必要な箇所で同様の施工手順により、湧水量・水圧を繰り返し測定できます。

 今後、当社では、高圧・大量湧水が予想される山岳トンネル工事に対して、本技術を積極的に適用し、安全で効果的な湧水対策の立案に役立ててまいります。