人流シミュレーションシステム「T-MultiAgent JINRYU」を開発

あらゆる状況・空間における様々な歩行者の移動を定量的に評価

2020年4月28日
大成建設株式会社

 大成建設株式会社(社長:村田誉之)は、建物内における歩行者の属性を考慮し、緊急時・平常時の混雑や避難経路の制約など周辺状況を踏まえて行動を予測・再現でき、あらゆる状況下での歩行者の移動を定量的に評価するマルチエージェント型人流シミュレーションシステム「T- MultiAgent JINRYU」を開発しました。これにより、建物内での効率的な避難誘導に関する計画の策定や対策の検証などが可能となります。

 多くの人々が集まる商業施設や劇場・ホールなどの大規模集客施設において、過度な混雑が生じると事故などに繋がる恐れがあるため、地震や火災発生時など緊急時にスムーズに避難できる動線計画が重要となってきます。施設内では高齢者や障がい者などを含む年齢、性別、歩行能力の異なる様々な歩行者を想定し、様々な状況下で安全かつ迅速に移動できるような計画立案が必要となります。一方、平常時でも、防犯や安全面などから過度な混雑を防ぐだけでなく、施設の活性化にも有効であり、特に商業施設では回遊性の定量的評価への適用が期待されてきました。
 そのため、従来から歩行者の属性を考慮して動線を評価できるマルチエージェント型シミュレーションが適用されてきました。しかし、多様な歩行者の行動を詳細に再現するには、さらに経路の熟知度設定やエレベータを待つ行列形態など複数機能を組み込む必要があり、幅広い用途に対して万能に機能する仕組みを構築することは困難でした。

 そこで、当社は、施設内における緊急時や平常時のあらゆる場面を想定して、施設内の様々な歩行者の移動を予測できる、マルチエージェント型人流シミュレーションシステム「T- MultiAgent JINRYU」を開発しました。

 本システムの特徴は以下のとおりです。(図1、図2参照)

  1. 1

    建物内部状況、歩行者属性、経路データなどを考慮し、歩行者個々の避難状況を再現
    本システムは、建物内部の壁、什器の形状・配置やエレベータ、階段等の設定に加え、歩行者の年齢・性別や歩行能力、身体寸法など個別の特徴を示す属性データ、目的地までの経路データを設定することが可能です。例えば、避難時に車いす利用者など移動速度の異なる避難者が混在する場合や、高齢者などが階段を昇降する際の疲労による歩行速度の低下なども考慮できるため、様々な施設における歩行者個々の避難状況を再現できます。

  2. 2

    火災や浸水が避難に与える影響を評価
    本システムでは、施設内に生じた煙や浸水から逃れる際の、煙濃度や浸水深さに応じた歩行速度の低下状況を考慮できます。火災時の煙拡散シミュレーションや豪雨時の浸水シミュレーションの結果を組み合わせることで通行不能箇所を回避できるなど、BCP対策として効率的な避難誘導方法を検討することが可能です。

  3. 3

    平常時の歩行者の移動を評価するための機能を保持
    本システムは、平常時での歩行者のエレベータ、エスカレータでの移動、施設内の混雑や行列など、実際の利用状況を再現する機能を有し、そのデータに基づき回遊性などを事前に検証することで、施設の活性化向上につなげることができます。

 今後、当社は、本システムを商業施設や大規模集客施設を対象とするだけでなく、超高層オフィスビル、集合住宅、地下インフラ施設などからの避難や施設自体の活性化にも適用し、より安全性と快適性の高い、魅力的な空間づくりを進めてまいります。

図1 解析フロー
図1 解析フロー
オフィス内からの移動状況(緊急時)
オフィス内からの移動状況(緊急時)
図2 施設内での人流シミュレーション状況
図2 施設内での人流シミュレーション状況