地盤加熱型の微生物浄化技術の実用化に目途

電極兼用注入管を用いて、VOCs汚染地下水を短時間で浄化

2020年3月11日
大成建設株式会社

 大成建設株式会社(社長:村田誉之)は、電極兼用注入管※1を用いて地盤を加熱し、汚染地下水に含有する揮発性有機化合物※2(以下、VOCs)を短時間で浄化する技術を開発し、実証試験により実用化に目途をつけました。

 当社は、これまでVOCsに汚染された地下水の原位置浄化対策として、汚染地下水を含む帯水層に設置した打込み式注入管から浄化材や空気を注入し、VOCsを浄化する菌の増殖を促す微生物浄化を多数実施してきました。しかし、帯水層の温度は通常20℃前後で、浄化菌が活発に活動できる温度(約30~35℃)より低いため、浄化期間が長期化する傾向がありました。また、浄化材や空気は透水性の高い砂層にしか供給できないため、粘土層などに残存したVOCsが再び溶出するリバウンド現象が発生するなどの課題がありました。

 そこで当社は、電極兼用注入管を用いて粘土層を加熱し、 VOCsを粘土層から帯水層に溶出させた後に浄化材等を供給することで微生物による浄化を促進する、地盤加熱型の微生物浄化技術を開発し、実地盤における加熱実証試験を行い、実用化に目途をつけました。

【本技術の特徴】(図1、図2参照)

  1. 1

    適切な深度に効果的に通電加熱し、浄化材を供給
    電極兼用注入管は、規格品のガス鋼管と塩ビ管を組み合わせ、表層に配管した絶縁部と、粘土層まで到達させる鋼管の通電部で構成されています。管では絶縁部、通電部の深度設定や帯水層に浄化材を供給するスリットの位置を自由に設定できるため、VOCsが存在する深度に効果的に通電加熱し、浄化材を供給できます。

  2. 2

    電極兼用注入管を容易に短時間で設置
    電極兼用注入管は、通常の浄化作業で使用している注入管と同様に、自走式の小型ボーリングマシンを用いて簡単かつ短時間に設置することができます。

  3. 3

    粘土層内の残存VOCsの溶出を促進し、短時間で原位置浄化
    粘土層への通電により地盤温度を高くできるため、VOCsの粘土層から帯水層への溶出が促進され、これまで困難であった粘土層に残存したVOCsの原位置浄化が期待できます。また、溶出したVOCsは地盤を加熱しない場合と比較して、約半分の時間で浄化できます。

  4. 4

    帯水層を微生物浄化に適した温度に制御
    通電量を調整することにより、浄化対象とする帯水層の温度を制御し、浄化菌の増殖に適した温度への設定が可能で、電気使用量を抑えて浄化することもできます。

【加熱実証試験結果】(図1~図3、写真1参照)

  • 帯水層(GL-13.5m)の温度は試験開始前の17℃から60日後には30℃まで上昇し、通電量を制御することで温度を長期的に維持できることができました。
  • 粘土層(GL-14.5m)では、本技術によりVOCsが帯水層に溶出しやすくなる60℃までの土壌温度の上昇を確認しました。
  • 地盤温度を20℃から30℃前後に高めることにより、帯水層に溶出したVOCsの浄化期間が概ね半減することを確認しました。

 今後、当社は、VOCs汚染が懸念され、短期間での浄化が求められる汚染サイトにおいて、粘土層などの不透水層に接する帯水層を対象とした原位置浄化技術として、本技術を適用してまいります。

図1 打込み式電極兼用注入管による浄化手順

図1 打込み式電極兼用注入管による浄化手順

図2 地盤温度による微生物分解速度の違い  (浄化材を用いたトリクロロエチレンの分解試験)

図2 地盤温度による微生物分解速度の違い

 (浄化材を用いたトリクロロエチレンの分解試験)

写真1 実地盤での通電による加熱試験状況
写真1 実地盤での通電による加熱試験状況
図1 従来方式と本方式の掘削範囲の比較

図3 加熱試験における実地盤での土壌温度の推移
(帯水層:GL-13m~-14m、粘土層:GL-14m~-16mに通電)

  1. ※1

    電極兼用注入管:浄化材等を地盤に供給でき、通電により地盤を加熱するための電極としても使用できる注入管。

  2. ※2

    揮発性有機化合物:揮発性が高く人体に有害な溶剤など地盤に漏洩すると地下水を介して広く拡散する汚染物質であり、トリクロロエチレンやベンゼンなど11種が環境規制物質に指定されている。