大変形・湧水対応型ロックボルト施工法「T-Flexible Bolt」を開発

地山条件に応じて注水圧を制御し、支保効果を発揮

2020年1月20日
大成建設株式会社

 大成建設株式会社(代表取締役社長:村田誉之)は、株式会社ケー・エフ・シー(代表取締役社長:髙田俊太)と共同で、山岳トンネル工事において、大きな土被りに伴う高い地盤圧力や脆弱な地盤条件により生じる大変形に追従し、かつ湧水が発生する条件下でも破断せずに支保効果を発揮するロックボルト※1施工法「T-Flexible Bolt」を開発しました。

 発破を用いる山岳トンネル工事では、掘削後に地山の崩落や変形を防ぎ、安定した状態で作業するため、ロックボルトを地山に打設して施工を行います。(図1参照)しかし、トンネル壁面が大きく変形する場合、耐力を超える荷重がロックボルトに作用し、トンネル壁面近傍の緩んだ地山の範囲内で破断する可能性が懸念されています。海外では、トンネルの大変形を吸収する機構を持つ可縮ロックボルトが開発され、鉱山などに適用されていますが、湧水が発生する箇所では、ロックボルトが地山に定着する前に注入した充填材が流出してしまうという課題があり、適用が困難でした。

 そこで大成建設とケー・エフ・シーは、湧水条件下において一般的に使用されている鋼管膨張型摩擦式ロックボルト※2と注水装置に改良を加え、新たなロックボルト施工法「T-Flexible Bolt」を開発しました。本施工法により、地山の条件に応じ注水圧を段階的に制御しながらロックボルトを地山に定着させることで支保効果を保持できるため、地山の大変形に追従し、湧水条件下でも適用が可能となります。

 本施工法の特徴は以下のとおりです。

  1. 1注水圧を制御し、地山の大変形に追従(図2参照)
    掘削直後に地山が大きく変形する状態では、本ロックボルトへの注水圧を一定圧力に制御し、地山への定着力を調整することで、支保効果を保ちながら、地山変形に追従して、トンネル周辺の岩盤を保持し続けることができます。
  2. 2再注水により、地山変形収束時に確実に定着(図2参照)
    他の支保部材(吹付けコンクリートや鋼製支保工)との複合的な支保効果により、地山変形が収束する段階で本ロックボルトに再度注水・加圧することで、地山への密着を確実にし、最終的にロックボルトの支保効果を最大限まで発揮させることができます。
  3. 3従来型ロックボルト使用と損傷防止により、コスト増加や工程遅延を抑制
    本施工法の適用により、トンネル掘削直後の地山変形が大きな状態でロックボルトの損傷や破断を防止し、破断に伴う再打設などにかかるコスト増加や工程遅延を抑えることができます。また、従来の鋼管膨張型摩擦式ロックボルトを利用しているため、材料費の増加はほとんどありません。
  4. 4注水装置を利用し、注水圧を容易かつ柔軟に制御(写真1参照)
    本施工法では、装置の注水圧切替スイッチにより、本ロックボルト内の注水圧を容易に変更することができます。そのため、初期段階における注水圧の高低や再加圧のタイミングは注水圧モニターおよび地山の変形状況を確認しながら、柔軟に調整することができます。
  5. 5ロックボルト頭部に改良を施し、注水時の作業性を向上(写真2参照)
    トンネル内空側の本ロックボルト頭部に貫通孔を設けるなどの改良を施し、プレート、ナットを取り外すことなく注水アダプターを装着して再加圧することが可能で、注水時の作業性に優れています。

 今後、当社は、本施工法「T-Flexible Bolt」を用いて地山条件の異なる複数の現場で実証試験を行い、その効果を検証するとともに、高地圧・脆弱地盤条件下での山岳トンネル工事において、安全性および生産性を高める施工法として、実工事への適用に向け検討を進めてまいります。

図1 ロックボルトの支保効果
図1 ロックボルトの支保効果
図2 T-Flexible Boltによる段階的施工
図2 T-Flexible Boltによる段階的施工
写真1 改良した注水装置(差替)
写真1 改良した注水装置
写真2 ロックボルト頭部の改良部
写真2 ロックボルト頭部の改良部
  1. ※1 ロックボルト:
    掘削後に地山の崩落や変形などを抑制するために使用する鋼材で、地山状態に合わせて予め3m~6m程度の深さまで岩盤を削孔した後に、孔内にモルタルを充填し、鋼材を挿入して岩盤に定着させ、地山の安定性を高める。
  2. ※2 鋼管膨張型摩擦式ロックボルト:
    折りたたんだ状態にあるチューブ状の鋼管製ロックボルトを岩盤の削孔内に挿入後、高水圧をかけてチューブを一気に拡張し、ロックボルト周囲を地盤に定着させ、ロックボルト表面と岩盤との摩擦力により支保効果を発揮させる部材で、主に湧水が多くモルタル充填が困難な箇所に用いられる。