世界初 分解菌N23株により複合汚染された地下水を浄化
短期間、低コストで同時に分解
2020年1月7日
大成建設株式会社
大成建設株式会社(社長:村田誉之)は、独自に発見し、優れた浄化能力を持つ分解菌N23株※1(以下、N23株)を活用して、世界で初めて地下水環境基準※2に指定されている複数の汚染物質を同時に分解できることを確認しました。本技術を適用することで、従来の浄化方法と比較して、複合汚染された地下水中の有機性化学物質を短期間、低コストで分解することができ、浄化に係るCO2排出等の環境負荷を低減することが可能となります。
国の定めた地下水環境基準では、28項目の汚染物質が指定されており、そのうち17項目が有機性化学物質です。環境省における地下水質測定調査※3によると、これらの有機性化学物質が環境基準値を上回る事例も多数報告されており、その中でも不法投棄現場の地下水は、水溶性の高い化学物質であるクロロエチレン※4や1,4-ジオキサン※4などにより広範囲な汚染を引き起こしている事例が多く確認されています。このような広範囲な地下水汚染が生じた場合には汚染拡大を防止するため、通常、揚水浄化※5が適用され、汲み上げた地下水を複数の強力な酸化剤を用いて浄化する促進酸化法が有効ですが、浄化コストが高いことやCO2排出量が多い等の課題が指摘されています。
そこで当社は、複合汚染地下水に含まれる有機性化学物質に対してN23株を活用した微生物による浄化性能試験を行い、その分解状況を確認することで、促進酸化法に代わる新たな浄化技術として、その有効性を検証しました。
N23株を用いた浄化技術の主な特徴は以下のとおりです。
- 1本技術は、これまで単一菌株を用いた微生物浄化では実現できなかった、汚染地下水に含まれる複数の有機性化学物質を同時分解することが可能です。
- 2規制強化が進められているクロロエチレンや1,4-ジオキサンなどを短期間で分解(各物質約1mg/lを地下水環境基準値以下まで1日以内で分解)することが可能です。
- 3本技術の導入により、浄化設備をコンパクト化し、汚染物質の負荷変動などに対しても浄化処理を安定かつ効率的に行えるため、従来の促進酸化法と比較して、浄化コストは最大50%、浄化に係るCO2排出量は最大84%の削減が可能です。
今後、当社は、実汚染水を用いた適用性評価及び現地実証試験を通して、本技術を用いた揚水浄化技術のシステム化を図り、汚染された地下水の浄化対策に適用してまいります。
表1 地下水環境基準の有機性化学物質に対する分解菌N23株による分解状況(硝酸性・亜硝酸性窒素及び重金属類を除く)
物質名 | 環境基準値 | 分解菌N23株による分解状況 |
---|---|---|
四塩化炭素 |
0.002mg/l以下 |
× |
テトラクロロエチレン |
0.01mg/l以下 |
× |
1,1,1-トリクロロエタン |
1.0mg/l以下 |
× |
1,1,2-トリクロロエタン |
0.006mg/l以下 |
〇 |
1,3-ジクロロプロペン |
0.002mg/l以下 |
〇 |
トリクロロエチレン |
0.03mg/l以下 |
〇 |
1,1-ジクロロエチレン |
0.1mg/l以下 |
〇 |
1,2-ジクロロエチレン |
0.04mg/l以下 |
〇 |
1,2-ジクロロエタン |
0.004mg/l以下 |
〇 |
ジクロロメタン |
0.02mg/l以下 |
〇 |
クロロエチレン |
0.002mg/l以下 |
〇 |
ベンゼン |
0.01mg/l以下 |
〇 |
1,4-ジオキサン |
0.05mg/l以下 |
〇 |
チラウム | 0.006mg/l以下 | 〇 |
チオベンカルブ | 0.02mg/l以下 | 〇 |
シマジン |
0.003mg/l以下 |
未評価 |
PCB |
検出されないこと |
未評価 |
○:分解可能、×:分解不可
- ※1
分解菌N23株:
1,4-ジオキサン分解菌として汚染地下水から分離した微生物。N23株は、1000mg/lの1,4-ジオキサンを48時間以内に、地下水環境基準値0.05mg/l未満まで分解可能であり、その分解能力は世界No.1。 - ※2
地下水環境基準:
人の健康の保護及び生活環境の保全を目的とした「地下水の水質汚濁に係る環境基準」で、28項目の汚染物質の基準値および測定方法を定めている。 - ※3
地下水質測定調査:
平成29年度における環境省の地下水実態調査(水・大気環境局、平成29度地下水質測定結果、平成30年12月発行)。 - ※4
クロロエチレン、1,4-ジオキサン:
平成29年に土壌環境基準に新たに登録され、今後対策が求められる有機性化学物質。 - ※5
揚水浄化:
汚染地下水を汲み上げて地上で浄化する方法。