コンクリートのひび割れ画像解析技術『t.WAVE Ⓡ』の実用性を向上

高架橋計測にドローンを用い、点検時間短縮、費用削減を実現

2019年12月18日
大成建設株式会社

 大成建設株式会社(社長:村田誉之)は、既開発のコンクリートひび割れ画像解析技術「t.WAVE (ティ・ドット・ウェーブ)」(以下、t.WAVE )の実用性向上のため、ひび割れ点検に係る専用プログラムを組み込み、高架橋などの高所やアクセス困難な箇所の計測にドローンを用いて撮影した画像の解析機能を付加しました。また、沖縄県内の長大海上橋、高架橋を対象に本技術を用いた点検作業の実証を行い、ひび割れ状況の定量的な評価を検証するとともに、点検時間の短縮と費用の大幅な削減が可能となることを確認しました。

 高度成長期にコンクリートで建設された道路橋やトンネルなどのインフラ構造物は、供用後50年以上経過しているものが多く存在し、老朽化が懸念されています。これら老朽化インフラに対して、2014年に国土交通省が法令による定期点検を義務化しており、経年劣化に伴うひび割れの有無や幅・長さなどの状況確認が必須となっています。従来、これらインフラ構造物の点検は、点検員が目視で行うことが多く、点検結果には、ばらつきが生じる可能性もあり、定量的な評価が困難であるなどの課題がありました。また、高所では足場や高所作業車などを使用しながら、構造物の躯体形状に沿うように点検することから、多大な時間と費用を要していました。

 そこで当社は、2008年にデジタル画像からコンクリート構造物のひび割れを解析・評価する技術として、撮影した画像処理に日本で最初にウェーブレット変換※1を活用した「t.WAVE 」を開発し、これまで20件以上のインフラ構造物の点検業務に活用してきました。さらに、2014~2018年度に実施したSIP※2(内閣府主管の戦略的イノベーション創造プログラム)でのインフラ点検技術開発に関する取り組みを通して、本技術の機能と実用性を大幅に向上させてきました。また、琉球大学を中心とするSIP地域実装支援チーム※3と連携し、沖縄県内にある複数の長大海上橋、高架橋を対象にドローンによる撮影を行い、コンクリート道路橋のひび割れを定量的に評価し、かつ効率的に点検できることを実証しました。

 本技術の特徴は以下のとおりです。(写真1、写真2参照)

  1. 1

    ひび割れ状況を定量的に評価し、劣化状態を判断
    本技術の適用により、コンクリート構造物のひび割れの幅、長さを画像処理、解析により高精度に検出・数値化することで、ひび割れ密度※4などひび割れ状況の定量的な評価が可能となります。これにより、従来の点検員による目視点検では定量化が困難であった構造物の劣化の程度を客観的に判断できるばかりでなく、経年劣化の進行状態を把握することができます。

  2. 2

    画像処理・解析の効率化により、スムースな点検作業が可能
    今回開発したひび割れ画像処理・解析に係る専用プログラムを組み込むことで、現地での撮影条件に合わせて撮影された画像に対し、正面から見たように変換する正対補正や画像合成などの最適処理、ひび割れ状況の画像解析および解析結果出力に至る一連の作業を連続して効率的に実施できるため、点検作業がスムースに行えます。

  3. 3

    点検時間の短縮、費用を削減
    市販のドローンを用いた撮影技術を適用することで、目視点検に比べ、足場や高所作業車、ロープアクセス※5が不要となることから、構造物のひび割れの撮影、画像処理・解析等の点検作業を短時間で安価に実施することが可能です。
     一例として、大規模高架橋(橋長50m以上、点検面積1500m2 ~16,000m2程度まで)を対象としたひび割れ点検の試算では、目視点検に対して、ドローンを用いた点検の作業時間※6を最大50%削減、費用※6を最大40%削減することができます。

 今後、当社は、SIPの実施理念でもある開発技術の社会実装を積極的に展開するため、コンクリート構造物の維持管理業務をさらに正確かつ迅速、安価に実施できるよう、検討を進めてまいります。また、コンクリート構造物のひび割れ点検技術の普及を通して、老朽化したインフラ構造物の長寿命化の実現に寄与してまいります。

撮影画像 ひび割れ画像解析結果
写真1 t.WAVE によるコンクリートのひび割れ画像解析結果例
市販ドローンによる 海上橋橋脚の撮影状況/撮影現場における ひび割れ画像解析状況/橋脚表面での ひび割れ画像解析結果
写真2 琉球大学ほかとの海上橋点検の試行状況
  1. ※1

    ウェーブレット変換: 
    画像の中にある線状の特徴範囲を抽出するのに適した画像解析技術。ひび割れの幅や長さを定量的に評価することが可能な手法。

  2. ※2

    SIP(Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program):
    内閣府が主管する戦略的イノベーション創造プログラムの略称。国の府省や分野を超えた横断型の研究開発プログラムを示し、第1期は平成26~30年度の5か年で実施。

  3. ※3

    SIP地域実装支援チーム: 
    主に全国各地の大学が拠点となり、SIPにおける開発技術を、地域の実情に合わせて実用化を進めた支援組織。

  4. ※4

    ひび割れ密度: 
    コンクリート表面の1m角の範囲内にあるひび割れの総延長。コンクリート構造物の劣化の程度を知るための指標のひとつ。

  5. ※5

    ロープアクセス: 
    橋梁等の対象物に点検員がロープで吊り下がりながら、近接して目視で点検する方法。

  6. ※6

    点検の作業時間、費用:
    点検に関する作業時間と費用は、現地での画像撮影から屋内での画像解析、ひび割れ図の作図までの一連の作業を実施した場合における目視点検に対する削減値。