液状化地盤の変形を簡易に予測する3次元静的解析手法を開発

建物の沈下を高精度、短期間で予測

2016年3月3日
大成建設株式会社

 大成建設株式会社(社長:村田誉之)は、地震時に液状化する地盤の変形を簡易に予測するための3次元静的解析手法を開発しました。この解析手法の適用により、建物の沈下を高精度で短期間に予測することが可能となります。

 2011年に東北地方太平洋沖地震が発生した際には、液状化による地盤の沈下が各地で発生し、住宅や工場などの建物が被災しましたが、安全で効果的な液状化対策を検討するためには、地盤の変形を正確に予測することが重要です。

 液状化する地盤の変形を予測する解析手法には、動的解析手法と静的解析手法があります。動的解析手法は時間により変化する地盤と構造物の挙動を2次元または3次元で詳細に把握できますが、地盤の条件設定が複雑で、高度な解析技術が求められ、計算時間も膨大となります。一方、静的解析手法は主に2次元解析を用い、地盤の条件設定は簡易で、計算時間も短時間で済むため、実務に広く適用されています。しかし、建物が近接して設置されているプラント工場や住宅などの3次元的な地盤の変形予測を行う際には、2次元の近似的なモデルにより解析するため、解析精度に限界があるなどの課題がありました。

 そこで、大成建設はこれらの課題を解決するため、2次元静的解析プログラム「ALID」※1の液状化による地盤変形解析機能を、汎用3次元解析プログラム「FLAC3D」に組み込み、液状化する地盤の変形を簡易に予測できるように機能拡張した3次元静的解析手法を開発しました。

本解析手法の特長は以下のとおりです。

  1. 1液状化対策の信頼性を向上
    本解析手法では、実際の地層構成や構造物の形状・配置を3次元でモデル化できるため、2次元解析では近似的に予測していた3次元的な構造物の不同沈下や、近接している複数の構造物が互いに干渉し合って生じる変状などを精度よく予測し、より安全で効果的な液状化対策を選定できます。
  2. 2計画・基本設計段階から適用が可能
    従来の3次元動的解析手法を適用する場合と比較して、本解析手法は地盤の条件を簡易に設定することができ、検討対象となる地盤や地震動などに関して詳細な情報に乏しい計画・基本設計段階から適用することができます。
  3. 3検討期間を大幅に短縮
    設計の際に、複数の対策法や詳細な仕様の検討に用いるパラメータスタディでは、下図に示すモデル規模による20ケースの検討期間を試算すると、従来の3次元動的解析手法で約2ヶ月を要しますが、本解析手法では2週間程度で実施でき、大幅な短縮が可能となります。

 本解析手法を用いた東北地方太平洋沖地震での近接した戸建住宅の被災事例解析では、住宅の傾斜角や沈下量など実際の被災状況を再現しており、本解析手法の有効性を確認できました。

 今後は、液状化に伴う地盤変形の簡便な予測ツールとして、臨海部のプラント工場等での液状化対策の検討などに適用していく予定です。また、大規模な地盤変状※2や地下水の影響※3を適切に評価することによって、予測精度のさらなる向上を図っていきます。

液状化地盤の変形を簡易に予測する3次元静的解析手法を開発
  1. ※12次元静的解析プログラムALID
    東京電機大学の安田進教授が開発した解析プログラム。ALIDでは、液状化によって自重応力下の砂質土層のせん断剛性が低下することで流動変形が発生すると仮定している。液状化に伴って発生する過剰間隙水圧の消散による沈下とあわせて、地盤の残留変形量を求めることができる。
  2. ※2大規模な地盤変状
    液状化が生じると地盤は液体のように振る舞うため、大規模な変形が発生する。3次元有限差分法解析手法FLAC3Dの大変形解析機能(地盤の変形と構造物の配置変化の影響を考慮して計算する機能)を用いることで大規模な地盤変状が解析でき、より精度の高い地盤の変形予測が可能になる。
  3. ※3地下水の影響
    液状化地盤内の水圧は地震時に上昇し、地震後には消散する。近似的に考慮している水圧の影響をFLAC3Dの水~土連成解析機能(地盤の変形と合わせて地下水の浸透を同時に計算する機能)を用いることで適切に評価でき、より精度の高い地盤の変形予測が可能となる。