国内初 単離した完全脱塩素細菌を用いた浄化技術を開発
経済産業省と環境省が策定した利用指針の適合確認を取得
2016年1月8日
大成建設株式会社
大成建設株式会社(社長:村田誉之)と独立行政法人 製品評価技術基盤機構(NITE、理事長:辰巳敬)は、塩素化エチレン類※1を無害なエチレンまで浄化できる特殊な嫌気性脱塩素細菌※2(デハロコッコイデス属細菌 UCH007株)を国内で初めて単離(複数の細菌から純粋な1種類の細菌だけを抽出すること)し、本浄化菌を利用して汚染された地下水を従来の半分以下の期間で浄化する技術を開発※3しました。また、塩素化エチレン類浄化菌を用いる土壌・地下水の浄化事業計画において、経済産業省と環境省が策定した「微生物によるバイオレメディエーション利用指針」※4の適合確認を受けました。
土壌汚染対策法で規定されている第1種特定有害物質(揮発性有機化合物※5)による地下水汚染の件数は塩素化エチレン類による汚染が8割以上を占めており、またその汚染は広範囲に及んでいることが多いため、低コストかつ環境負荷が少ない微生物を利用した浄化方法の適用が増えています。微生物を利用した浄化方法には、汚染サイトに生息している微生物を活性化させる方法と汚染サイトに汚染物質を分解する菌を人為的に導入する方法があり、近年では浄化期間を短縮できる後者の適用を進めており、安全で効果的な浄化技術の開発が求められています。
塩素化エチレン類を無害なエチレンまで完全に脱塩素化できることが確認されている嫌気性細菌はデハロコッコイデス属細菌だけですが、この細菌は人為的に早く増殖させることが難しく、国内では一度も単離に成功していませんでした。
この度、大成建設とNITEは、高度な集積培養および単離技術を用いて、デハロコッコイデス属細菌UCH007株を国内で初めて単離し、その細菌の導入による塩素化エチレン類汚染地下水の浄化を可能としました。
本浄化菌および浄化方法の特徴は以下のとおりです。
- 1UCH007株は単独培養(1つの菌だけを培養すること)では増殖速度が遅く、塩素化エチレン類の脱塩素化も進行しにくいため、UCH007株と同時に単離された増殖促進菌スルフロスピリラム属UCH001株との混合培養(2つの菌を一緒に培養すること)により、UCH007株の増殖速度を2倍以上に促進でき、脱塩素化を速やかに進行させることが可能です。
- 2UCH007株とUCH001株の2株を利用した浄化方法の安全性については、上記利用指針の適合確認を受けており、両者を混合培養することにより、安全性と浄化効果の高い菌体を安定して高速培養することが可能です。
- 3従来方法では浄化が完了するまでに通常2~3年程度の浄化期間が必要でしたが、浄化菌を導入する浄化方法により浄化期間を半分以下に短縮することが可能です。
今後、大成建設では、実汚染サイトでの浄化効果の確認、更なる浄化効率の向上を図るための研究開発を進め、本菌株を浄化事業に適用する枠組みをNITEと共に構築していきます。
- ※1塩素化エチレン類
塩素化エチレン類は、エチレンに塩素を付加して合成した液体。トリクロロエチレンやテトラクロロエチレンが金属部品の洗浄剤や溶剤として広く使用されてきたが、有害性が確認されたため環境規制物質に指定されている。 - ※2嫌気性脱塩素細菌
嫌気性細菌の中で、水素を電子供与体として揮発性有機塩素化合物の塩素と水素を置換することにより増殖可能な特殊な細菌である。テトラクロロエチレンやトリクロロエチレンなどの塩素化エチレン類は、一般的に脱塩素細菌によって塩素が一つずつ外れて、最終的には無害なエチレンまで浄化される。 - ※3本開発は、NEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)および経済産業省からの受託事業「VOCの微生物等を利用した環境汚染物質浄化技術開発(次世代型バイオレメディエーション普及のためのセーフバイオシステムの研究開発)」(平成22年度~平成26年度)の成果として得られたものである。
- ※4微生物によるバイオレメディエーション利用指針
汚染サイトに人為的に分解菌を導入して浄化する際に安全性の確保に万全を期すための指針。生態系への影響及び人への健康影響に配慮した適正な安全性評価手法及び管理手法のための基本的要件の考え方を示し、微生物を用いた浄化事業の一層の健全な発展及び利用の拡大を通じた環境保全に資することを目的として2005年に経済産業省および環境省によって策定された。 - ※5揮発性有機化合物
常温常圧であっても大気中に容易に揮発する有機化学物質のことで、土壌汚染対策法では第一種特定有害物質として11物質が規制されている。このうち、塩素化エチレン類は、1,1-ジクロロエチレン、シス-1,2-ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンの4項目が該当する。また、地下水の水質汚濁に係る環境基準では、上記の4項目に加えて、塩化ビニルモノマーが規制されている。