サンゴ増殖のためのモルタル製着床具を開発

—材料調達が容易で量産可能—

2014年5月13日
大成建設株式会社

 大成建設株式会社(社長:山内隆司)は、亜熱帯海域に生息するサンゴを有性生殖法で増殖させるための「モルタル製着床具」を開発し、沖縄県宮古島海域における実証実験によって着床と成長を確認しました。

 近年、亜熱帯海域に生息するサンゴは、食害(オニヒトデや巻貝等)、海水温の上昇、病害、沿岸域の開発行為など、生育環境の悪化による個体数の減少が問題となっています。
サンゴの減少は、周辺海域の生態系バランスを損なう原因となり得るため、保全対策が必要です。そこで、サンゴを人工的に増殖させる技術が検討されています。
この増殖技術は、無性生殖による増殖法と自然に放卵・受精・孵化した幼生を増殖させる有性生殖法の2つに大別されます。特に有性生殖法は異なる遺伝子をもつ個体群を増殖させることができるため、遺伝的な多様性が高い増殖法として注目されています。
具体的には、サンゴの幼生が着床できる着床具と呼ばれる特殊な器具を利用し、食害等の影響を受けないサイズまで成長させ、その後生息地となる場所へ移植するものです。
これまでは、表面に微細な凹凸があることから、サンゴの幼生の着床に適していると考えられ、セラミック製の着床具が中心でしたが、セラミックスの焼成には、専用の焼窯が必要であり、生産拠点が限定されるなど、調達における制約が少なくありません。

 そこで当社は、材料として調達や製作が容易なモルタルを用い、セラミックスと同様の特徴を有する着床具を開発しました。材料をモルタル製とすることで、通常施設で大量に製造が可能となります。また、離島など現地でも製造できることから、利便性にも優れています。
一方、着床を促進させるため、着床具自体に以下の工夫を施しました。まず、モルタル(セメント)から溶出するアルカリ成分によるサンゴへの悪影響を防ぐため、特殊な表面処理剤を塗布し、溶出を抑制しています。また、表面部分を微細な凹凸仕上げとし、サンゴの幼生が着床しやすい形状としました。
さらに、着床具の設置ポイントにも配慮しました。独自開発したシミュレーション(注1)により、サンゴの幼生が多く集まるエリアを予測し、着床具を最適なポイントへ設置することで、より多くのサンゴの着床が可能となります。

 本着床具の性能を評価する実証実験を2012年5月より沖縄県宮古島沿岸で開始しました。実験では1台あたり200個の着床具を固定した3台の着床架台を海域に設置しました。2014年3月(設置から22か月後)の調査で、42個のサンゴが着床・成長しており、成長しているサンゴのうち最大のものは約40mmに達し、本着床具が有効に機能していることが確認されました。

 当社では本着床具およびシミュレーションによる増殖技術を、サンゴ礁保全・創造の環境技術として、実用展開を図っていく予定です。

サンゴ増殖のためのモルタル製着床具を開発
サンゴ増殖のためのモルタル製着床具を開発
  1. 注1サンゴ幼生移動シミュレーション
    有性生殖法では多くのサンゴを着床させるため、着床具の設置場所選定が重要です。孵化したサンゴの幼生は、海面を漂った後に海底に沈降して基盤に着床します。この特性に着目し、風による影響をうけやすい浮遊期の幼生が、風と流れ(潮流)によって移動する経路を予測する「サンゴ幼生移動シミュレーション」を開発しています。本シミュレーションで予測したサンゴ幼生の集まる場所に着床具を設置することで、より多くの幼生を着生させることが可能になります。