複雑な潮流変化を短時間で予測する
「流況予報システム」を開発

—ボスポラス海峡横断鉄道トンネル建設工事に適用—

2007年5月31日
大成建設株式会社

 大成建設(株)(社長:山内隆司)は、海洋工事の安全性や施工精度を確保する上で重要となる潮流の変化を短時間で、数日先まで予測できる『流況予報システム』を開発し、この度ボスポラス海峡横断鉄道トンネル建設工事の沈埋函沈設に適用しました。本システムは、潮汐によって規則的に発生する潮流だけでなく、これまで難しかった気象や地形の特性によって発生する不規則な潮流の変化も予測し、結果をインターネットを通じて関係者に自動配信します。

大きな潮流の発生する海域では、施工中の潮流の変化が工事に大きな影響を及ぼします。特に大型の浮体構造物を係留する必要がある場合には、予想を越える潮流の発生により施工精度が悪化するだけでなく、係留索破断等の重大な事故に繋がる危険があり、施工中の潮流の変化を予測することが重要となります。例えば明石海峡大橋のケーソン(橋脚の基礎部)沈設工事では、潮流予測に基づき、流れの遅い期間や潮止まりの間に作業をしました。

主な潮流の発生要因は潮汐であり、多くの海洋工事では潮流表からおおよその潮流の状況が予測できます。国内では海上保安庁から主要な海域の潮流表が公開されており、潮流がこの予測値から大きく外れることはありません。またこの潮流変化は、流れの向きが交互に逆向きに変わる往復流で、転流時には潮止まりが発生することから、施工計画を容易に策定することができます。

一方、世界のいくつかの海峡では、潮汐以外の要因により大きな潮流が発生します。例えば、今回本システムを適用したボスポラス海峡では、風と気圧が潮流変化の主な発生要因となっています。その変化は不規則であり、潮止まりもほとんど発生しません。さらにこの海峡は、黒海側から流れてくる淡水系の流れの下に、マルマラ海側から塩水系の逆向きの流れが潜り込む二層流という複雑な流況を示すことが知られています。このような海域の流況を短時間に精度良く予測することは、これまで不可能でした。

今回開発したシステムは、現在の流況や気象の状況をリアルタイムで取得するオンライン観測システムと、これを初期値として現地の気象予報をもとに今後の流況変化を算出する予測システム、予測結果を配信する流況情報配信システムの3つを統合したもので、以下の様な特徴を有します。

  1. 1潮汐以外の要因による潮流変化および二層流の影響を取り込んだ潮流変化の予測できる。
  2. 2予測は最新の現地データを初期値として再計算され、逐次更新される。(今回は、1時間に1回)
  3. 3すべての処理は自動的に実行され、インターネットを通じて最新の予測値をいつでも取得出来る。
  4. 4モデルを予め構築することにより,複雑な数値シミュレーションを用いないで短時間に予測値を算出できる(数分)。
  5. 5インターネットを通じてデータをやりとりするため、システム本体を設置する場所を選ばない。(今回、システムはメンテナンスの観点から日本に設置)

特に沈埋函の沈設では、沈設作業中に設定流速以上の流れが発生した場合、係留システムに重大な不具合が生じる可能性があります。したがって、その様な流れが発生しないことを本システムにより確認して、沈設作業を開始します。これまでのところ、本システムを利用した沈設可能の判断精度は95%と非常に高く、施工において重要な役割を果たしています。

今後、本システムを国内外の潮流予測が必要となる様々な海洋工事へと展開する予定です。潮流予測は、上記のような工事の安全確保のためだけでなく、工事に伴い発生した濁りの拡散を予測するような環境面における利用も可能です。また、本システムに生態系モデルを組み込むことにより、赤潮の発生予報システムの開発等、様々な方面への展開を現在検討中です。

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