社長メッセージ
企業風土改革をやり遂げ
“これからの、「地図に残る仕事。®」”を通じて
レジリエントな社会づくりに貢献します
1.なぜ私は建設現場を大切にしているのか
「建物が好きだから建設で社会に貢献したい」
今から半世紀近く前、そう考えた私は大学で建築を専攻し、当社に入社しました。入社後は26年間、建設現場で働き、施工管理の基本からお客様との交渉までさまざまなことを学びました。
建設の仕事は単品受注生産ですので、製品である建造物を造りはじめる前にお客様に発注していただく必要があります。専門家ではないお客様は、工事請負契約を結ぶ時点では、実際にどのようなものができ上がるのか明確にイメージがつかめません。従って、まずは当社を信頼していただくこと、これが工事を発注していただくために大切な条件となります。
私たちがお客様からの信頼を得るための基盤は、一つひとつの建設現場における誠実なものづくりにあります。心を込めて丁寧に、お約束した条件で安全にお客様のご要望を形にしていくこと、この積み重ねが信頼の礎になります。その上で、お客様に寄り添い、お客様自身も気づいていないような課題やニーズを見つけ、それらを解決することに加え、お客様の期待と想像を超える提案をしていくことが、より厚い信頼につながります。
建設現場で働いてきて特にうれしく感じることは、工事中は言うまでもなく、完成した後も長くお付き合いをさせていただいているお客様が今なお大勢いらっしゃることです。完成後、何年もたってから「大成さん、またよろしく」と言っていただけることは、私たちが心を込めてやり遂げた仕事が信頼という財産になって返ってくる、ということであり、非常にありがたく、うれしく思います。
だからこそ、私は、建設現場で働く社員と協力会社の皆さんがワクワクしながら、持てる力を十分に発揮できる環境を整えることに力を入れています。現場で汗を流して働く皆さん自身が、誇りを持って、建設の仕事が「面白い」「好きだ」と言えるようになれば、おのずと能動的に行動するようになり、お客様と社会の課題解決に貢献する価値を提供することができます。それが、お客様からの信頼となり、その信頼は最終的に当社グループの利益に結実し、持続的な企業価値向上と安定的成長につながります。
このように、建設現場は、当社の生産拠点であるとともに、お客様をはじめとするステークホルダーの皆様と当社を「結ぶ場」であり、当社グループの成長の起点なのです。
2.持続的な企業価値向上と安定的成長のための企業風土改革
社会が複雑化し個人の価値観の多様化が進む中、社員が会社のことをどのように考え、何を求めているのかを正確に把握し、エンゲージメントを高めて企業価値の向上につなげるために、2022年6月よりエンゲージメントサーベイを開始しました。当初のスコアは私の想定よりも低くショックを受けましたが、課題として、階層間のコミュニケーション不足や本支店と作業所との労働環境の格差などを改めて認識することができました。
これらの課題を解消するために、社員との対話を大切にする取り組みをはじめた2023年に、建設現場において、当社にとって何よりも大切な「信頼」を根底から覆すような品質・工程に関する不適切事案が発生しました。その重大さを真摯に受け止め、同様の事案を二度と起こさないために、組織とシステムを整備して対策を徹底しています。さらにこれらの事案が発生した真因を突き詰めると、その根底に当社の役職員が仕事をする上での思考や行動パターンなど、いわゆる企業風土に問題がある、という結論に至りました。
振り返ると、リーマン・ショック後、東日本大震災からの復旧・復興、東京オリンピック関連工事など、国内の建設需要が高まる中、受注と生産のバランスが次第に崩れて、お客様からの信頼を生む場である、建設現場の余裕が失われていました。現場の社員が仕事に追われ、心理的安全性の低い、失敗が許されない雰囲気になっていました。
経営者としての責任を痛感した私は、硬直化した企業風土を変えなければ、私たちが目指している「人々が豊かで文化的に暮らせるレジリエントな社会づくりに貢献する」ことはおろか、企業としての存続も危うくなると判断し、全社的な企業風土改革に取り組むことを決意しました。
まず、社員と経営陣とで議論を重ね、2023年10月に企業風土改革のワーキンググループを発足し、2024年4月に「人生を尊重する企業風土」を目指すことを経営会議で決定しました。ここでいう「人生」とは、役職員だけでなく、当社グループの事業に関わる全ての人々の、長期間の人生です。そして、同年7月に私が直轄する風土改革推進部を設置し、その後、この風土改革推進部を事務局として、社員と経営陣が直接対話をしながら、ボトムアップとトップダウンの両面からの改革活動を進めています。
私は、この取り組みを成功させる鍵は、私も含めて全ての役職員が「自分のこととして取り組むこと」と「心理的安全性を確保すること」だと考えています。


まず、「自分のこととして取り組むこと」については、役職員を対象に少人数でのタウンホールミーティングや社員と経営陣の意見交換会を開催し、継続的に意見交換を行っています。特に、本社・支店の幹部層には、企業風土改革の実現に向けて制度、ルール、職場環境を変えていくことが幹部としての重要な役割であると自覚して、社員の想いや疑問に耳を傾け、課題解決のために行動することを求めています。
そして、社員から寄せられた意見や疑問について、経営会議で議論して制度改革に活かすとともに、社員にフィードバックして再び議論するという、全員が変化を実感しながらより良く変えていくサイクルの実現に努めています。社員の意見を反映した施策の一つに、昨年12月より実施している「役職員の服装の自由化」があります。これにより、社内が自由で明るい雰囲気になりましたし、社員同士のコミュニケーションの活性化や柔軟な発想が生まれやすい職場環境につながっていくと感じています。
次に、「心理的安全性の確保」については、上司の役割が重要ですので、上司に対して、日頃から部下の意見を最後まで聴くことをお願いしています。さらに、マネジメント層が自分自身を見つめ直し、より良いマネジメントを実践できるように「マネジメントBOOK」を作成し、展開しています。
改革に本格的に取り組み、目に見えて変わってきているものは、エンゲージメントスコアです。2022年6月にB50.0であったスコアは、2025年6月にはBBB57.4となっています。2030年度にA60以上とする目標を掲げており、これからも、社員が高いエンゲージメントを維持して、方向性を一にし持てる力を十分に発揮できるように取り組みを続けていきます。
また、2023年に始めた私と社員の意見交換会は、年間約40回開催しており、昨年度は216名の社員が参加しています。意見交換を通じて、社員の会社に対する熱い想いをひしひしと感じており、改革の推進に向けた私の原動力となっています。最近、社員から「会社のここを変えたい」や「なぜ社長は、今日はビジネスカジュアルではなくスーツ姿なのか」など、率直な意見や指摘がよく出ており、上司にものを言える雰囲気が広がってきていると実感しています。ただし、社長という立場にいると、良いことばかり聞こえてきて、本当の姿はなかなか見えないものですので、バッドニュースファーストを徹底しながら、これからもより多くの社員の声に耳を傾けていきます。
このように少しずつ変化が表れていますが、十数年かけてつくられた思考や行動パターンを完全に変えるためには、相応の時間が必要であり、息の長い取り組みになります。それでも、この改革は、これからの当社グループの持続的な企業価値向上と安定的成長のために必要不可欠であり、必ずやり遂げなければなりません。私が先頭に立ってけん引し、できることはすぐに実行し、少しずつ変えていくべき課題には腰を据えて取り組んでいきます。そして、社員と経営陣との対話を大切にしながら、役職員が一体となって、競争力の源泉である「人財」が遺憾なく力を発揮できる「人生を尊重する企業風土」をつくっていきます。
3.人事制度改革の狙い
企業風土改革の取り組みに加えて、今年4月以降、人事制度も順次見直しています。これまでの人事制度は2001年度に定めたもので、キャリアパスの多様性に欠けるなど、時代に合わなくなっていました。そこで今回、社員が自分の特性に応じて自律的に多様なキャリアパスを選択できるように、目標とする役職や職務に必要な経験やスキルとその水準を明確にしました。また、定年年齢の65歳への引き上げ、勤務地選択制度の導入、転勤に伴う手当の拡充などを行い、社員が持てる力を十分に発揮できる環境を整えています。さらに、人事評価制度も、一人ひとりの業績目標への貢献と、組織貢献やキャリアアップへの行動を、以前の制度よりも明確に評価へ反映するように改定しました。これらの効果が出てくるのはこれからですが、社員向けの説明会での反応はポジティブなものが多く見られました。今後、適切に運用して、より多くの社員が納得し、会社を信頼して能力を発揮することにつなげていきます。
人財育成については、私が社長に就任して以降、役職員のリベラルアーツの習得に注力しています。当社の社員は、自分の専門分野については非常に優秀ですが、不確実性が高まるこれからの時代はそれだけでは足りません。芸術や文化に触れて、リベラルアーツを習得してこそ、不連続な社会の変化に対応する自由な発想を持つことができます。お客様の期待と想像を超える提案を実践するためには、専門的知識・経験に加えて、リベラルアーツに裏付けされた感性と、物事を考え抜く姿勢が欠かせません。当社のさらなる成長のために、また社員の人間力向上のために、役職員全員でリベラルアーツの習得を進めていきます。
人事制度改革などは、コストではなく当社の未来への投資であり、将来的に果実となって返ってくるものです。2030年以降生産年齢人口の減少が本格化する中で、今、人財に積極的に投資をするように変わらなければ、持続的な成長は望めなくなります。これからもブレることなく、競争力の源泉である「人財」を強化し、最大限に活かすための取り組みと投資を進めていきます。
4 .中期経営計画(2024-2026)の現状と今後の成長ストーリー

昨年5月に公表した2030年に目指す姿を達成するための【TAISEI VISION 2030】達成計画、及びそのマイルストーンとなる中期経営計画(2024-2026)については、いくつかの課題を抱えつつも、現時点ではおおむね順調に進捗しています。中期経営計画(2024-2026)に掲げた経営数値目標を確実に達成するためには、まず何よりも、インフレ局面で損なわれたグループ国内建築事業の収益体制を立て直すことが喫緊の課題です。その対応として、適正な仕事量と要員配置の実現、利益を重視したメリハリある受注戦略、そして、「デフレマインド」から「インフレマインド」への意識転換といった施策を積極的に進めています。こうした取り組みは、まだ道半ばでありますが、徐々に効果が表れはじめており、中期経営計画最終年度の数値目標を達成できると確信しています。
持続的に企業価値を高めていくためには、社会や経済の予測困難な変化に左右されることなく、着実に成長し、安定して利益を上げる企業となることが重要だと考えています。
この考えのもと、まず一昨年、当社グループは利益重視の姿勢を明確に打ち出しました。私は、利益とはお客様からの当社グループに対する評価の表れであると捉えています。そのため、取締役会や経営会議でも、売上(トップライン)を重視し過ぎるのではなく、利益を重視した経営方針をとることについて議論を重ねてきました。経営陣の間でも、この方針について一致した認識を共有しています。これからも議論を深めながら、将来の成長を見据えて、サステナブルな経営を推進していきます。

さらに、事業ポートフォリオの観点では、従来の中核である国内の「土木事業」「建築事業」「開発事業」に加えて、「エンジニアリング事業の拡充」と「海外事業の基盤整備」に注力しています。また、土木・建築の各事業については、「新築工事」と「リニューアル工事」など、事業をより細分化し、土木・建築ともにリニューアル事業の拡充を図るなど、ニーズに即した対応を進めています。例えば、国内土木事業のリニューアル工事では、現在は、高速道路の改修工事が中心ですが、今後は、社会インフラの老朽化が進行する中、防災や減災の観点からも多様なリニューアル需要の拡大が見込まれます。当社グループとしても、これらの機会を確実に捉えるべく、関連する諸施策に注力していきます。国内建築事業のリニューアル工事では、既存建物のZEB化が新たなビジネスチャンスとなっています。当社が磨いてきたリニューアルZEB技術を活かし、環境性能の向上を図るとともに、事業としての収益力強化につなげていきます。

当社グループは現在、新たなビジネスモデルの確立に向け、地域との連携とO&M(運営・保守)事業の取り組みを進めています。また、事業変革においては、シナジー効果を発揮できる企業との資本業務提携やM&Aを積極的に活用し、事業基盤の拡大・強化を図っています。さらに、今後は、業界の枠を超えた異業種との連携がますます重要になります。特にイノベーションの実現では、異業種パートナーとの協創・協働が不可欠です。現在、自動運転、スマートシティなど、さまざまな先進的取り組みを多様なパートナーと連携しながら推進しています。
環境分野における技術力とノウハウも、当社グループの競争優位性につながります。これまでもZEBをはじめとする環境関連技術を磨いてきましたが、さらに歩を進めて、建物のライフサイクルにおけるCO2排出量を実質ゼロ以下にする「ゼロカーボンビル」や、雨水を活用して上水消費量を実質ゼロにする「ゼロウォータービル」の開発に取り組んでいます。今後も、カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー、ネイチャーポジティブの実現に貢献するため、積極的な技術開発とその実装、そしてノウハウの蓄積に努めていきます。
私は、当社グループを、建設事業を中核としながらもその枠にとどまることなく、周辺領域を含めて事業を強化して成長させ、お客様及び社会の課題解決に幅広く貢献していきたいと考えています。こうした取り組みを通じて、持続的な企業価値向上と安定的成長を実現します。
5 .資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応
PBR(株価純資産倍率)の向上も、経営者にとって大きな責務の一つです。PBRをROE(自己資本当期純利益率)とPER(株価収益率)に分けて考えると、ROEの向上は収益性の向上と株主還元施策がポイントであり、私たち自身でやり遂げることができる課題です。当社グループの利益重視の経営方針、3カ年で3,500億円の成長投資、及び戦略的意図に基づく株主還元施策の継続などはそれにかなったものですので、今後も、成長投資と株主還元をバランスよく進めていきます。
一方で、PERの向上は、私たちだけで完結できるものではなく、株主・投資家の皆様に、当社の将来に対する期待値を上げていただくことが必要です。そのためには、IR活動などにより、当社の考え方や取り組み、ポテンシャルを丁寧に説明してご理解いただくことが欠かせません。社長である私自身が前に出て、株主・投資家の皆様へ精度の高い情報をタイムリーに提供し、当社グループの成長ストーリーを明確に示しながら対話を重ね、経営にフィードバックしていくことが重要になります。これからも、各種説明会やミーティングなど、株主・投資家の皆様との対話を積極的に進めていきます。
6.利他の志と事業を通じた社会貢献
私たちの仕事は、地図に残ります。地図に残るからこそ、長きにわたり社会の役に立ち続ける“本物”であることが求められます。そして、“本物”を創るためには、自社のことだけでなく、将来世代も含め、その建物や構造物を利用する多くの人のことを大切に考える、利他の志が欠かせません。
当社グループの創業者・大倉喜八郎は、パイオニア精神を持って前例のないことに挑戦し、事業を通じて日本の近代化に貢献するとともに、商売で得た利益を教育や福祉、文化振興に活かして社会に還元した人物でした。その精神と志を脈々と受け継いできたからこそ、150年以上にわたり当社グループがお客様と社会から必要とされてきたのだと感じています。また、だからこそ、優秀な人財が集まり、たゆまぬ挑戦によって数々の困難なプロジェクトを完遂してきたのだと思います。
今、私たちが掲げているグループ理念「人がいきいきとする環境を創造する」と、中長期的に目指す姿「人々が豊かで文化的に暮らせるレジリエントな社会づくりに貢献する先駆的な企業グループ」は、まさに「事業を通じた社会貢献」という利他の志を具体的に表したものであり、私たちの存在意義そのものです(下図参照)。

社長である私の使命は、当社グループがこれから100年先、150年先もお客様と社会から選ばれる企業であり続けるために、創業者から受け継いだパイオニア精神と利他の志を今一度グループ全体で共有し、役職員全員が誇りを持って自分の仕事に取り組み、事業を通じた社会貢献に挑戦できる環境を実現することだと考えています。
全員がワクワクしながら働き、お客様と社会の期待と想像を超える価値を提供して課題解決に貢献する、その結果、個人も会社も成長し、株主をはじめステークホルダーの皆様の期待にしっかりと応えていく、これが、大成建設グループの、“これからの、「地図に残る仕事。®」”です。
私たちの、「これから」に向けた取り組みにぜひご期待ください。
