リリース

高速道路リニューアル工事に使用する新方式の半断面床版取替機を開発

クレーン規格外装置の導入により施工期間の大幅な短縮を実現

2023年11月9日
大成建設株式会社

 大成建設株式会社(社長:相川善郎)は、株式会社北川鉄工所(会長兼社長:北川祐治)と共同で、高速道路リニューアル工事の大幅な工期短縮を実現する新方式の半断面床版取替機※1を開発しました。本取替機は、巻上装置と移動装置が独立し、クレーンに分類されない構造を取り入れ、架台やレール等が不要な車輪自走式を採用しています。当社の試算では、本方式の導入により、床版取替機の組立・解体および検査に要する日数を従来の1/3に、週末開放施工の場合の床版取替期間を従来の1/4にそれぞれ短縮することが可能になります。

 近年、道路・橋梁をはじめとしたインフラ施設の老朽化が大きな社会問題となっています。中でも、高架構造の高速道路では、大型車両の通行量増加などによる部材の疲労、水・塩分のコンクリート内部進入による剥離・劣化、鉄筋腐食などを要因として「RC床版の劣化」が進行しており、劣化した床版などの取替えを安全かつ迅速に進める高速道路リニューアル工事の重要性が増しています。床版取替作業では、道路交通事情により従来の全面交通止め規制での施工から、道路の片側を通行させながら工事を行う「半断面施工」のニーズが増えてきています。しかし、これまでの半断面施工の床版取替機には以下のような課題がありました。

  • クレーンの構造規格に準拠した取替機は、使用前後で準備・組立・検査・解体などに時間を要するだけでなく、組立・解体には別途、補助クレーンが必要となる。

  • 取替機の組立・解体に際し、部材を搬出入する順番と方向、補助クレーンの場所等が固定されることがあり、施工条件により組立・解体が不可能な場合や施工場所の制約によりクレーン規格に準拠した機械を使用できないことがある。

  • 取替機の移動には架台・レール等の軌条が必要となる。

 このような背景から、従来の課題を解決し、交通規制期間および更新工事工程の短縮を可能とする高効率で高性能な床版取替機の開発が求められていました。
 そこで当社と北川鉄工所は、安全性と生産性に優れたクレーン規格適用外の半断面床版取替機を新規に開発しました。

 新方式による半断面床版取替機の構成および作業手順は以下のとおりです。

【取替機の構成】

 今回開発した半断面床版取替機は、新設側フレーム、既設側フレームの2つの大型部材とこれらに付設する巻上装置、移動装置、吊治具、発電機ユニットで構成されます。(図1参照)

図1 半断面床版取替機の構成

【作業手順】

■取替機の組立(図2参照、取替作業を道路進行方向とは反対方向(左から右へ)から行う場合)

床版取替位置に対して、①既設側フレームを先に搬入・設置、②移動装置を設置した新設側フレームを搬入・設置、③両フレームを接続・一体化、④巻上装置を搬入・設置、⑤発電ユニットを搬入・設置、⑥巻上装置と移動装置を接続し、組立完了。なお、床版取替作業を道路進行方向(右から左へ)に進める場合は、新設側フレーム、既設側フレームの順で搬入し同じ手順で組立てる。解体はいずれの場合も組立と反対の手順で行う。

図2 組立手順

■床版撤去時(図3参照)

①移動装置に付設した吊治具を用い撤去する床版を巻上装置で吊上げる、②吊上げた床版を巻上装置から移動装置につかみ換えた後に巻上装置を切り離す、③移動装置で床版を新設側フレームの中央部まで移動、④床版の向きを90度回転させる、⑤向きを変えた床版を既設側フレームの巻上装置下まで水平移動、⑥搬出場所で巻上装置につかみ換える、⑦移動装置は次に撤去する床版の位置へ移動、⑧巻上装置でトラック荷台に床版を吊降ろし搬出する。床版設置時は逆の手順で実施する。

図3 床版撤去状況

■フレームの移動(図4参照)

①既設側・新設側の両フレームに設置された油圧ジャッキを縮めフレーム全体を下げる、②既設側フレームに装備されている四輪が床版上に着地し、新設側フレームは浮いた状態になる、③既設側フレームの四輪を用いて床版上を自走し、次の床版取替作業場所まで移動する。

図4 フレーム移動状況 

 本取替機の特徴および適用効果は以下のとおりです。

【特徴】

  1. 1

    取替機が両方向からアプローチでき、補助クレーンを使用せず短時間で組立・解体可能
    床版取替機は、道路進行方向に対して同一方向あるいは反対方向のどちら側からでも作業場所にアプローチが可能となるよう、専用フレーム(既設側フレーム・新設側フレーム)の搬入・設置の順番を入れ替え可能な構造となっています。さらに、補助クレーンを使用せずに取替機の操作のみで組立・解体が短時間で完了することから、即座に作業を実施することができます。

  2. 2

    クレーン構造規格外の取替機により労働基準監督署の検査なしで稼働可能
    本取替機は、巻上装置と移動装置がそれぞれ独立した機構を採用し、巻上装置使用中に荷重が作用している場合には巻上装置は走行できないように制御されているため、クレーン構造規格適用外の機械となり、労働基準監督署の検査を受けずに稼働が可能です。

  3. 3

    専用フレームは走行架台、レール等を用いず車輪により自走して移動可能
    所定の場所での床版取替作業後は、専用フレームに設置されている油圧ジャッキを縮めることでフレーム全体の高さを低くした状態で、既設側フレームに予め装備されている四輪を用いて床版上を自走して移動させることができます。

  4. 4

    吊荷の姿勢制御機構を装備し作業時の安定性・安全性を確保
    本取替機は、吊荷の姿勢を制御する機構(巻上装置の4つの独立ウインチとワイヤーで吊荷の姿勢を制御)を装備しており、壁高欄付き床版などの偏心している吊荷でも水平を保持し安定した姿勢で上下させることができます。また、床版を吊上げ搬送して90度回転する際に、吊荷が作業エリアからはみ出さないよう、回転中心を少しずつスライドする機構を備えるなど、安全を確保するための工夫が施されています。

【適用効果】

  1. a

    床版取替機の組立・解体および検査に要する日数を従来の1/3に短縮可能
    本取替機の組立・解体はそれぞれ1日で完了し、稼働前の検査も不要となるため、組立・解体および検査に要する日数を従来の1/3(当社試算値)に短縮することができます。(表1参照)

  2. b

    床版取替工事の施工期間を従来の1/4に短縮可能
    本取替機を用いた工事では、週末開放施工時の週間工程で作業時間を最大で4倍確保することが可能となるため、施工期間を最大で従来の1/4(当社試算値)に短縮することができます。(表2参照)

 当社は、今回開発した新方式の床版取替機を、高速道路リニューアル工事における半断面施工時の自動化・機械化構想の一翼を担う技術と位置付けています。今後全国の高速道路リニューアル工事において本取替機の提案・導入を積極的に行い、床版取替工事の安全性および生産性の更なる向上に努めてまいります。

  1. ※1

    半断面床版取替機:2車線道路のうち、1車線のみを車線規制して半断面での施工が可能となる断面分割施工用の床版取替機