リリース

室内でのウイルス感染リスク評価の新手法を構築

数値流体シミュレーションを基に建物の空調・換気計画の最適化を実現

2023年9月20日
大成建設株式会社

 大成建設株式会社(社長:相川善郎)は、室内におけるウイルス感染リスクを評価する新たな手法を構築しました。本手法は数値流体シミュレーションによる室内でのウイルス分布の解析結果から、居室での感染リスクを定量評価できるようにしたもので、建物の空調・換気計画に活用することで感染症に対して安全・安心な居住空間の提供が可能となります。

 建物を新築・改修する際の建築・設備計画において、新型コロナウイルス感染症に対する経験から今後同様の感染症が発生した場合のリスクに備えた対応が重要となります。これらの感染症は主に飛沫やエアロゾルなど空気を媒介して感染が拡大するとされており、エアロゾル感染では粒径5μm未満のウイルスを含んだ微粒子が空気の流れに乗って広く室内に拡散するため、居室の空調・換気計画の適否が感染防止対策の効果を大きく左右することになります。一方、室内でのウイルス拡散などによる感染リスク評価では、感染者から拡散するエアロゾルの室内分布について、詳細な数値流体シミュレーションを用いて解析した結果から感染確率※1を算出する方法が提案されています。しかし、その解析結果からどう判断すればよいかという「判定基準」が示されていないなどの課題がありました。
 そこで当社は、今回ウイルスを含むエアロゾルの室内分布状況に感染確率の計算手法を組み合わせ、感染が収束に向かうように感染リスクの判定基準を設定することで数値流体シミュレーション結果から室内でのウイルス感染リスクを評価する新たな手法を構築しました。(図1参照)

 本手法によるウイルス感染リスク評価方法とその特徴は以下のとおりです。

【評価方法】(図2~図5参照)

  • 居室規模や用途などの条件に応じて空調・換気計画を設定。

  • 室内に感染者が1名いると想定し、数値流体シミュレーションを用いて室内での呼気の濃度分布を算出。(図3~図5に示す感染者の呼気濃度分布を感染者が各座席に着席している状況ですべて計算)

  • REHVAガイダンス※2に基づき、評価式を用いて座席毎の感染確率を算出。

  • 感染リスク判定基準は、感染が収束に向かうための目標として「室内の感染者から感染した新たな感染者数が1人未満」となる状況と設定。
    室内におけるウイルス感染リスクを評価し、感染者数が1人未満の場合に安全であることを判定。

【特徴】

  1. 1

    ウイルス感染リスクの適切な評価により安全・安心な居室空間を提供可能
    本評価手法で用いる数値流体シミュレーションでは、計算負荷が比較的小さい拡散物質の濃度分布を主体に解析を行い、その結果から新たに設定した判定基準を基に、感染防止対策などの効果も含め短時間で感染リスクを定量的に評価することができます。その結果、感染リスクを低減し安全・安心な室内環境の提供が可能となります。

  2. 2

    空調設備機器の設置計画の最適化が可能
    室内におけるウイルス分布の解析結果と感染リスク評価を基に、居室の安全が確保できるよう、空調方式、換気量、吹出口・吸込口の位置関係などの空調・換気計画を改善し、最適化を図ることができます。

 今後当社は、オフィスや病院、その他の様々な建物の居室において本評価手法の活用を進め、感染症リスクの低減と空調・換気計画の最適化により、安全・安心な居住空間の提供に貢献してまいります。
 なお,本解析の実施に関しては東京大学加藤信介名誉教授のご助言を頂いています。

図1 感染状況のモデル化イメージ
図2 室内の感染リスク評価方法
図3 室内の座席レイアウト例
図4 感染者の呼気濃度分布(口の高さの平面図)
図5 感染者の呼気濃度分布(断面図)
  1. ※1

    感染確率:
    感染確率はWell-Rileyの感染確率モデルに基づき、室内にいる一次感染者数[人]、人の呼吸率[m3/h]、感染性粒子生成率[1/h]、暴露時間[h]、外気による換気量[m3/h]から算出。

  2. ※2

    REHVAガイダンス:
    REHVA(Representatives of European HVAC engineers Associations(欧州の空調・換気設備学協会))の、REHVA COVID19 GUIDANCE version 4.1に、新型コロナウイルスの感染拡大防止に関わる感染確率の算出方法が記載されている。本技術ではこのガイダンスで提案されている室内で想定される活動状況に応じて感染性粒子生成率、呼吸率を選定し、Wells-Rileyの感染確率モデルに基づいて計算している。