ごあいさつ

辻田 修

ここに,大成建設技術センター報第44号をお届けします。

本年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震は,多くの尊い人命や生活基盤を奪うと共に,企業の生産機能の停止とサプライチェーンの崩壊をもたらし,産業・経済にも大きな打撃を与えました。改めて,被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。私どもは,安全・安心な環境を創造していく企業の代表として,被災地の一日も早い復興に役立つよう努力していく所存です。

さて,今回の地震は,マグニチュード9.0とわが国の地震観測史上最大の規模で,東北地方から関東に至る広い範囲に震度6弱から震度7に達する強い揺れをもたらすとともに,大津波による甚大な被害を発生させました。また,東京湾岸埋立地や利根川などの河川流域で顕著な液状化が発生し,戸建住宅は大きな被害を受けました。1995年兵庫県南部地震の際にも確認された通り,1981年の新耐震設計法以前の建物に構造的被害が見られましたが,その数は震度の大きさの割には少なかったと言われています。一方で,天井や2次部材,設備などの建物の主要構造部以外の被害が目立ちました。生産施設も大きな被害を受け,自動車や電機,機械,エネルギーなど多くの産業分野で操業が停止し,建物の構造的安全性に加えて,事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)とその為の対策技術の重要性が再認識されました。多くの被害が発生した一方で,免震・制振技術や液状化対策技術などの有効性も明らかになりました。

こうしたことから,本号では東北地方太平洋沖地震に関連した20編の論文からなる特集を組みました。内容としては,この地震による被害を概観し,地震動,津波,地盤液状化について分析を加えた論文を掲載しました。また,弊社が開発し保有する対策技術・復旧技術の数々を紹介すると共に,今回の地震でその効果が実証された技術を報告しております。近い将来において発生が懸念されている次なる大地震への備えとして,私どものこれらの技術が皆様のお役に立てるものであると確信しております。

特集のほかには,「材料」,「構工法」,「防災」,「環境」の各分野における最新の研究開発成果をとりまとめました。超高層RC造集合住宅への適用事例としては国内最高強度となる設計基準強度200N/mm2の超高強度プレキャストコンクリートの紹介,超高強度繊維補強コンクリート(UFC)を世界で初めて鉄道橋(架け替え)に適用した事例の報告などを含み,新規の開発技術の紹介,前報までの報告からの進展の報告など,全37編の論文です。

皆様におかれましては,この大成建設技術センター報をご高覧いただき,ご指導ご助言を賜りますとともに,ご活用いただくようお願い申し上げます。