照明計画と知的生産性に関する研究
A Study on Lighting Design and Intellectual Productivity

研究の目的
本研究では,空間の画一的な照明環境から,より知的生産性の高い照明環境を実現することを目標に,照度と色温度の組み合わせが知的生産性に及ぼす影響の検討を行った。被験者実験により,単純業務と高度な知識創造業務を模擬した作業を課すことで,知的生産性に関する客観的なデータを得ることを目的とする。
また,時間変動のない均一な照明環境と午前中に昼光照明を取り入れた時間変動のある照明環境について,被験者実験により比較を行い,昼光照明が作業効率及び心理量・生理量に与える影響を検討した。
技術の説明
照度・色温度の組み合わせによる実験は,技術センター空調システム実験室にて実施した。被験者は21〜23歳の大学生6名(男性4名、女性2名)であり,被験者のサーカディアンリズムを考慮し,全日午後の同時間帯に実施した。昼光照明の実験は,北窓から昼光の射し込むスペースと半地下にあり昼光の射し込まないスペースを用いて実施した。なお,被験者は19歳〜25歳の大学生・大学院生5名(すべて男性)を対象として行った。実験は各ケース3日間実施したが,曝露環境に十分順応していると考えられる3日目の結果を用いて評価を行った。
主な結論
(1) オフィスの照明基準である750lx-5000Kで最も満足度が向上したが,光環境の満足度の高い空間が必ずしも作業効率を向上させる空間ではない可能性が示された。(2) 暗い環境は眠気やだるさは増すが,身体的にリラックスできる環境であることが確認された。(3) 加算作業・校正作業・テキストタイピングなどの単純作業では,光環境の違いは作業効率に有意な差を与えなかった。(4) 朝2時間の昼光照明環境に滞在することは,光環境への満足度や眠気の抑制,覚醒度の向上に有意に影響を及ぼすことが確認された。また,考えをまとめたりアイディアを創出したりする作業「マインドマップ」において,作業効率を有意に向上させる結果を得ることができた。(5) 昼光照明環境に滞在することにより,唾液中のアミラーゼ濃度を抑制することからストレスの軽減にも効果的である可能性が示された。
*2 慶應義塾大学 理工学部 システムデザイン工学科