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CFDによる煙流動解析

住宅火災実験における煙層温度の評価

中濱 慎司*1・菅原 進一*2・原 哲夫*3・山内 幸雄*2

Smoke Flow Analysis Using Computational Fluid Dynamics

Evaluation of Smoke-layer Temperature in a Fire Experiment in a Residence

Shinji NAKAHAMA*1, Shin'ichi SUGAHARA*2, Tetsuo HARA*3 and Yukio YAMAUCHI*2

研究の目的

火災時における避難安全性の評価において,煙の流動や煙層温度の予測は必要不可欠です。従来,これらの予測には二層ゾーンモデルが用いられ,空間内の煙を均一な性状として扱い,簡易に評価してきました。しかし,この方法では,空間内での詳細な煙性状や階段室といった複雑な空間に対し,正確な評価ができませんでした。
これらの課題に対応するためには,CFD(Computational Fluid Dynamics:数値流体力学)が必要であり,既存の住宅火災実験を対象に煙層温度の評価を試みました。

技術の説明

二層ゾーンモデルは,火災時の建物内空間の上部を煙層,下部は空気層に明確に分け,各層内は均一な性状と仮定して,温度や濃度などの物理的性状を解析する方法です。解析結果が非常に短い時間で得られるなど,長所も多いですが,階段室のような複雑な空間内の煙流動や,自然排煙における外気風の影響といった煙の乱れは再現できません。
CFDは,空間をセルという微細な空間で分割,煙の発生源や扉の開閉状況などの境界条件を設定し,煙の流れを支配する方程式を解きます。これにより,時々刻々変化する煙の流動や煙層温度といった物理的性状を,セル毎に詳細に把握することが可能となります。

主な結論

本研究では,CFDを用いて住宅火災実験における煙層温度の評価を行いました。上図に示すように時々刻々変化する煙の流動や煙層温度と実験結果を比較したところ,全体的な傾向を再現することが出来ました。
また,従来の予測手法である二層ゾーンモデルとの予測の差異を把握するために,CFDと実験値の温度データと測定点高さから,煙層平均温度と煙層下端高さを算出する方法を用いて煙層を定義し,比較しました。その結果,二層ゾーンモデルよりもCFDの予測結果が,実験値に近い性状を示しました。
なお本研究は,東京理科大学グローバルCOEプログラム「先導的火災安全工学の東アジア教育拠点」での検討内容の一つである「先導的住宅防火研究会」の結果をまとめたものです。

*1 技術センター 建築技術研究所 防災研究室
*2 東京理科大学
*3 日本ERI・東京理科大学