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都市型小変位免震の開発

パッシブ型可変減衰オイルダンパーの開発と免震建物への適用解析

欄木 龍大*1・長島 一郎*1・新居 藍子*1・勝田 庄二*2・木村 雄一*3・西本 信哉*2

Development of Short-stroke Base-isolated Structure for Urban Areas

Development of Passive Variable Oil Damper and Analytical Study of Application to a Base-isolated Structure

Ryota MASEKI*1, Ichiro NAGASHIMA*1, Aiko NII*1, Shoji KATSUTA*2, Yuichi KIMURA*3 and Shinya NISHIMOTO*2

研究の目的

都市部の市街地などでは,敷地の有効利用の観点から,免震層のクリアランスを10~15cm程度とした小変位免震建物の実現が望まれます。都市型小変位免震は,従来の免震と比較して大きな建築面積を確保でき,地震時の揺れに対しては,制震建物と比較して加速度応答を大幅に低減可能な免震システムとして開発しました。

技術の説明

一般に,免震層の変形を抑制するために,ダンパーの減衰力を大きく設定すると,上部構造へのエネルギー伝達が大きくなり,建物の加速度応答が大きくなってしまいます。そこで,ダンパーの減衰係数が,免震層の変形が所定の変位を越えた場合に低い値から高い値に切り換わるパッシブ型の可変減衰オイルダンパーを開発しました。このダンパーにより,比較的頻度の高い中小地震では,加速度応答を小さく抑え,大地震に対しては,免震層の変形が過大になるのを防ぐことが可能です。可変減衰ダンパーの切り換えはパッシブ方式で,電気を使用しない機械式の作動スイッチを用いているため,メンテナンスフリーです。

主な結論

実大のパッシブ型可変減衰オイルダンパーを試作し,動的試験により,所定の変形で減衰係数が切り換わることを確認しました。また,開発したダンパーをクリアランス15cmの8階建て免震建物に適用した場合について,シミュレーション解析を実施し,従来の減衰係数一定のダンパーを適用した場合と比較しました。その結果,大地震時の変形を目標とするクリアランス内に抑えながら,中小地震時の加速度応答を,減衰係数一定のダンパーを適用した場合よりも小さくする効果が確認できました。本ダンパーの適用により,地震の大きさによって免震層の減衰特性が適切に切り換わる,高性能な都市型小変位免震システムが可能となります。

*1 技術センター 建築技術研究所 防災研究室
*2 設計本部 構造グループ
*3 設計本部 構造計画グループ