東北支店 横浜町風力発電所建設工事作業所

未来につなぐ当社初の大規模風力発電所建設工事未来につなぐ当社初の大規模風力発電所建設工事

青森県下北半島の陸奥湾に近い横浜町でオール大成の布陣による大規模風力発電所建設が進んでいる。
特大クレーンを用いた12機の大型風車や大型変電所などの建設は当社初だ。
新たな分野に果敢に挑戦する作業所を訪ねた。

Photographs by Yukiko Koshima

カーボンニュートラルに
貢献する風力発電所工事

 東北新幹線七戸十和田駅から車で約40分。牧歌的な田園風景が広がる中、白く美しい、巨大な風車が次々に姿を現す。風況の良さから、多くの風力発電プロジェクトが、ここ本州最北端の青森県下北半島で進行中だ。当社は、同県横浜町を中心とした直径約3㎞圏内に、設計、調達、建設・試運転を一括して請け負うEPC契約により、単機定格出力3.6MWの風車12機、送電線敷設約20㎞、154kV連系変電所から成る風力発電所建設工事を担っている。

12機の風車の他、連系変電所に接続する電気工事、変電所まで約20kmの送電線敷設工事を行っている

 日本は2050年までに、温室効果ガスの排出を全体でゼロとするカーボンニュートラルの実現を目指しており、クリーンな再生可能エネルギーである陸上および洋上の風力発電導入に力を入れている。当社土木事業においても、注力すべき成長分野に風力発電を掲げている。

 当社が大規模風力発電所の建設を手掛けるのは今回が初めて。小村俊夫作業所長は、「このプロジェクトは、大成の陸上、洋上風力発電の未来を占う試金石であり、絶対に成功させることが私たちの使命です。風力発電所建設の知見、ノウハウ、技術、人材を養うべく、土木本部、エンジニアリング本部などと共に、オール大成でこの工事に取り組んでいます」と強調する。

オール大成のチーム力で
大規模風力発電所建設を推進!

 風車の基礎部分は、建築基準法上の構造物であり、土木社員にはなじみが薄い。「建築本部に相談したところ、快く協力してくれました」と小村所長。建築基準法に基づく基礎配筋の3Dモデルを、建築本部デジタルプロダクトセンター(DPC)が作成。さらに仮設の足場に関する提案やコンクリート打設の手順といった施工上のアドバイスをもらい、部材の数量計算ではTASPlanの支援も得た。作業所では、土木本部洋上風力発電プロジェクト部、エンジニアリング本部の社員も加わって、オール大成でのプロジェクト推進が図られている。

DPCが作成したBIMモデル

12機据付が完了した2022年11月に撮影

綿密な準備と地元の協力を得て
巨大な風車部材を安全に輸送

 12機の風車配置は対象地域での1年間にわたる風況観測や綿密なシミュレーションを経て、最適な場所に計画されたものだ。工事は2020年8月、ヤードの造成や基礎工事に始まり、部材の輸送を含む風車の施工、送電線敷設工事、連系変電所の電気工事をほぼ同時に進めている。

大型風車はこうしてできる!

 大規模風力発電所の設置には、地元の理解が欠かせない。廃校となった小学校を作業所として活用し、風力発電のPR室や町民交流センターを併設。地域の活性化に貢献しながら、風力発電の意義を伝えている。

横浜町の廃校を改装した作業所
横浜町の廃校を改装した作業所

 本プロジェクトで採用された風車は、4部材を接続して高さ94mとなるタワー部、1枚57 mのブレード3枚、発電装置を格納したナセルと呼ばれるボックスなどの部材から構成される。1機につき10部材、合計120の部材は全て海外製だ。最初に直面した大きな課題は、海を越えて、むつ小川原(おがわら)港に到着した部材を、現場までいかに安全に搬送するかだった。港から現場までの道のりは約15㎞。分解できないブレードは、大型トレーラーの荷台から15mもはみ出してしまい、ちょっとしたカーブであっても通過が難しい。一方、タワーは最大で1部材86tもあり、その荷重から橋を渡ることは不可能だ。

デンマークの大手風力発電機メーカー「Vestas社」の大型風車。ブレードを含む最大高さは152mだ
デンマークの大手風力発電機メーカー「Vestas社」の大型風車。ブレードを含む最大高さは152mだ

 「現地測量に加え、ドローンで撮影した写真、モービルマッピングシステムによる3D画像データと地形図を組み合わせてシミュレーションを繰り返し、橋があってもカーブの少ないブレード用ルートと、橋を通らないタワー用ルート、最適な2つのルートを割り出しました」と鵜澤哲史次長は説明する。それでも多くの箇所で道路の拡幅や舗装、電柱・信号の移設、沿道の樹木の伐採等が必要だった。輸送ルート確保のため必要な許認可や借地などの交渉先は、関係官庁、関係機関、地権者など100カ所以上に及んだ。窓口となった西一彦工務課長は、「関係者一軒一軒に丁寧な説明を行いました。また日頃から地元と良好な関係を築けていたことも奏功し、多大な協力を得られました。クリーンエネルギーに対する地元の期待の大きさも肌で感じられました」と振り返る。

 最終的に一般車両を規制して、単管等をブレードに見立てて積載した試験輸送を実施。その後、本番の夜間輸送に臨んだ。さらに輸送の度に課題や改善策を検討した。綿密な準備の甲斐あって、全ての部材は、事故なく安全に現場に届けられた。

PR室には、風力発電所の模型を設置。
地元小学校の児童が見学に訪れる

日本にわずか十数台の
1200tクレーンで大型風車を据付

 風車は1機ずつ、搬入された部材を組み立てて完成させる。今回、最高高さ152mにもなる風車の据付工事に導入されたのは、国内にわずか十数台の1200tオールテレーンクレーンだ。アウトリガー※1にかかる力は最大216t。万一にもクレーンが転覆しないよう、セメント系固化剤による地盤改良を行うのが通例だが、この現場では、環境への配慮を徹底し、円弧すべりの検討を行い、H鋼材と鉄板を三重にして反力(荷重に対する釣り合いの力)を分散する方式を採用した。「綿密に沈下測量を実施しながら施工を行い、安全性を確保しました」と小村所長は話す。

 風車のタワー部は、4本の部材を、それぞれ100本、計400本のボルトでがっちり接続する。ナセルおよびブレードとの接続部、そして3枚のブレードを、オールテレーンクレーンで揚重して取り付ければ完成だ。1機の据付にかかる日数は約20日。ただし1機目の据付工事は、通常の倍近く、約1カ月をかけて慎重に、手順を十二分に確認しながら行った。

 「最初の1機が完成したときは、快哉を叫びました」と、小村所長は述懐する。

 風の力が不可欠な風力発電だが、その工事に風や雨は大敵だ。作業基準は、地上部の風速3〜4m/s以下、100m上空で10m/s以下。雨天時にはボルトが濡れてトルク(締め付ける強さ)管理が難しいため作業できず、冬場の3カ月は雪に覆われて工事休止となる。もちろん工期厳守が至上命題。シフトを組んで、昼夜土日施工で邁進する。工期に遅れは、一切ない。

  1. ※1安定性を高め、転覆等を防止するために車体から張り出して地面に設置させる装置
ブレード設置の際はナセルの外で作業をチェックする。上空100mの風は地上の3倍の強さ。施工中の風はまさに大敵だ。上り下りにはタワー内部のはしご(最終的にはエレベーターが設置される)を使うため、とにかく体力勝負!

次代の風力発電所建設工事を
担う人材育成に力を注ぐ

2022年10月19日現在建設中の最後の風車。当社初の大規模風力発電所建設工事の完遂まであとわずかだ

 154kVの連系変電所の電気工事もまた、当社初の試みだ。西本和行工事課長は、「電力会社や専門工事業者の協力を仰ぎながら、それぞれの設備の役割や仕組みを調べ上げて理解するところから始めました」と語る。同設備は22年8月完成、さまざまな検査を経て、10月1日、電力会社との連系を無事完了した。

 小村所長は、「洋上風力への参入を見据えた人材育成も我々が担うべき大事な使命」と語る。作業所では、本社から派遣された土木本部の若手社員が、ローテーションで現場の業務を実地体験し、風力発電所建設の要諦を学んでいる。

 風力発電設備の作業者を対象としたGWO※2による訓練も積極的に受講している。火災を想定した脱出訓練や、100m上空での作業トレーニングなどさまざまな安全訓練を経て、所員の約半数がGWO訓練認証を取得済みだ。

 所長自身、高速道路建設の現場を長く経験してきたが、風力発電は初めて。大任に不安はなかったのだろうか? そう問うと、「面白いチャレンジになると思った」と即答し、「経験者がいない中、緊急事態宣言下に現場入りし、ロシアのウクライナ侵攻の影響などによる海上輸送の停滞、円安による物価の高騰と、困難な状況が立て続けに起こりました。だからこそどんな手立てでも試してみよう、閉塞したムードを打破しようと、作業所が一丸となることができました。前例がないから、前例をつくれる。みんながやりがいを感じてくれています。またEPC契約のため、品質も我々の裁量にかかっており、技術者の腕の見せどころだと士気も上がっています」と熱っぽく話す。

 風車の据付は、残すところ1機のみとなった(取材時)。10月中には完了し、配線、試運転を経て、23年4月、同発電所は本格稼働する。12機合わせて設備容量43・2MWは、一般家庭2万6千世帯分の年間使用電力量に相当する。

 「竣工に向け、安全第一で今後も工事に全力を注ぎます。ここでの成功体験が、当社の風力発電所建設分野の発展という、未来につながる追い風になり、本事業がサステナブルな社会基盤の一翼となることを願っています」と、小村所長は白く輝くブレードを見上げて微笑んだ。

  1. ※2風力発電設備所有者や風力タービンメーカーなどで構成される非営利組織で、風力発電業界における安全な作業環境を実現する目的で設立された国際機関

※撮影時のみマスクを外しました

(2022年10月19日取材)

Voice ~現場のために今できることを~

通訳・翻訳作業を通して風力発電のノウハウを修得

堀江健太郎 シニアエンジニア

 エンジニアリング本部より当作業所に配属され、Vestas社SVとの折衝を担当しています。通訳や1万ページに及ぶ英語の風車組み立てマニュアルを読み込んで和訳し、ダイジェスト版を作成して工事チームに伝えるのも私の仕事です。そのおかげで、風車の建方、品質管理のノウハウが、しっかり身につきました。次なる風力発電の現場でも力を発揮したいと思います。
  • SV: スーパーバイザー(風車組立技術指導員)

Voice ~現場のために今できることを~

憧れの現場で風力発電のイロハを吸収しています!

小山内勇世 工事係

 2022年5月から当作業所に配属された新入社員です。高校の土木科時代にこの現場を見学し、東北の地にクリーンな風力発電をつくりたい、地元の力になりたいと強く感じました。願いがかない、今は据付工事に携わっています。ここに来て半年。明るく、風通しの良い現場なので、臆することなく教えを請い、日々成長できるよう励んでいます。

工事概要

工事名称 横浜町風力発電所建設工事
発注者

横浜風力開発(株)

設計者 当社
施工者 当社(EPC)
工期 2020年8月17日~2023年3月31日
工事内容 風力発電機3.6MW×12機(43.2MW・出力制限38MW)、送電線敷設約20km、連系変電所154kV
施工場所 青森県上北郡横浜町