大成建設のオープンイノベーション(TOI Lab.)

有識者講演集

サステナビリティ新時代の経営戦略_その2

発信型三方よし

 その中で企業はどうしていけばいいのでしょうか。
ここで出て来る言葉が「CSR」「CSV」です。CSRは2003年に日本に入ってきた言葉で、企業としてきちんとやりましょうとなった。
加えてそれだけじゃダメだ、企業価値と社会価値を同時に実現するCSVをやりましょうとなりました。このCSVを説明するのに良い言葉が古くて新しい「三方良し」です。自分良し、相手良し、世間良し。まさに本業を通じて社会と価値を共有するCSVを端的に表す言葉です。
 
 しかし、三方良しには「陰徳善事」という言葉もついて来ます。「良いことは黙っていて伝わる、黙ってやれ、空気を読め」となるわけですが、グローバルな現代ではこれは通用しないのです。
 そこで私が提案しているのが「発信型三方よし」です。
 
 高知県の「高知家」キャンペーンも良い例です。「高知家」の表札を作って、県内企業みんなが使っています。『リョーマの休日—高知家の食卓—』なんてキャッチフレーズも最高ですよね。「高知家にはポジティブ力がある。」という展開もあります。
 
 伊藤園は、農家・行政とともに耕作放棄地も活用して茶産地育成事業(新事業)を九州4県で展開しています。この事業や茶殻リサイクルが評価されて、2016年9月号の『フォーチュン』誌が選ぶ事業を通じて「世界を変える企業50社」の18位に選ばれました。
これは世界のティーカンパニーを目指す弊社にとって、非常に大きな励みとなりました。世界は近いな、と社員の皆にも感じてもらうことができます。
このほか、日経ソーシャルイニシアチブ大賞、農水・経産・環境各省からの大臣賞も受賞しています。
こうした賞を受賞するのは、こうやって請われれば毎週のようにあちこちでお話をしたり、レポートをたくさん作って発信していたからだと思います。
 
 企業が本業を通じて社会に良いことをしていくためには、このように発信していくことが大切です。ポイントは「いいね!」と思ってもらうこと。多分、CSR、CSVは、まず周囲の人々に「いいね!」と思ってもらうことが出発点。これがなければダメです。
そして、「なるほど!」と思わせる説明。これがないと「どうせ企業なんだから儲けるためにやってるんでしょ」と思われてしまう。そしてなるほど感があると、「またね!」と思ってもらえるようになる。そしてそれを繰り返していると「さすが!」と認めてもらえるようになるでしょう。
 ここで一番大切なのが「なるほど!」と感じてもらうために発信していくことではないかと考えています。
 
 例えば、今日の会場の「Sea」を考えてみましょう。私は今日はここに来るのにとてもワクワクしてきました。オープンイノベーションのための物語性があります。万人にとってのわかりやすさもある。そしてなによりも戦略性を持って世界へ発信しようとしている。価値を共有するためにこれに勝る手段はありません。
 企業が共創・協働していくためには、そのためのプラットフォームをつくり、共有価値を創造するとともに、このような学びと発信していくことが大切ではないでしょうか。
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CSRとCSV、二段重ねの経営

 ここからは理論編として、CSR、CSV、そしてESG投資やSDGsについてお話ししたいと思います。
 
 そもそもこうした動きの始まりは、「トリプルボトムライン」でした。
経済を回すだけではなく、「環境」「社会」もちゃんとやりましょうという動きです。最初はフィランソロピー的に余ったお金を寄付しましょう、応援しましょうという程度でしたが、環境問題に寄付しながら自分の工場の周囲が汚染されていては意味がない。
 
 
企業の社会的責任、CSRが問われるようになり、2010年にはISO26000で、CSRを含め企業が取り組むべき社会的責任の手引きが明確になりました。ISO26000では、「組織」「人権」「労働慣行」「環境」「公正な事業慣行」「消費者課題」「コミュニティへの参画及びコミュニティの発展」という7つの項目に整理され、いよいよ本業でCSR、そしてCSVに取り組む素地ができていきました。
 
 ここでひとつ申し上げたいのは、CSRとCSVの関係に誤解があるということです。どうもCSRが進化してCSVになったと考えている人も多いようですが、そうではありません。コーポレート・ガバナンス、コンプライアンスなど“守りのCSR”が基本にあり、重要な課題を選び出してCSVにしていくというのが正しい理解です。CSVはいわば攻めの要素であり、共有価値創造は、攻めと守りの2段重ね、両刀使いで進めることが重要だと思います。
 
 
 ちなみに伊藤園はCSVの重要課題として環境、消費者課題、コミュニティ課題を選んでおり、先に申し上げたように『フォーチュン』誌で選定されたり、各大臣賞を受賞しているわけですが、最初から社内で理解され、推進してきたわけではないんです。
 私が「CSRが大切です、これからはCSVですよ」という説明にあたり、社内理解の促進のために、もともとは「お客様第一主義」という伊藤園の社是の実践につながるものだと説明する過程で、社員にも非常に良く浸透するようになりました。逆に言うと、社員に浸透していないところではCSRもCSVもありはしないでしょう。

SDGsとESG投資の拡大

 そして2015年に、「SDGs(Sustainable Development Goals)」が国連で採択され、日本でも本格的に取り組みが始まるようになりました。SDGsとは世界が取り組むべき課題を17項目に整理した開発目標で、「貧困をなくそう」「飢餓をなくそう」「人や国の不平等をなくそう」「産業と技術革新の基盤を作ろう」「海の豊かさを守ろう」と非常に多岐にわたり、ちょっと見ると大変難しそうです。しかし、これもCSRのISO26000で整理された7項目にマッピングすることで、うまく理解し、実施していくことができそうです。
 
 
 このSDGsの採択によって、ソーシャルな活動を企業活動、経営に組み込まなければならない流れになってきました。それはESG投資の拡大です。
 E=環境は、パリ協定(2015)で定められ、G=ガバナンスはコーポレート・ガバナンス・コード(2015)が、そしてS=ソーシャルは、このSDGsによって、すべてが揃いました。その意味で2015年は「ESG元年」と言って良いでしょう。ESG投資とはCSRを投資家目線で見たもので、CSRが投資家からも注目されるようになったという意味では、CSRの新元年とも言えるかもしれません。
 
 
 CSR、CSVがESG投資の対象になるということはどういうことか。単純に言えば、これまでの「やってますモード」ではダメだということです。やったことでどんなチャンスが得られたのか。やったことで生じるリスクは管理できているのか。その両面から見た評価が重要になります。
 こうした動きを受けて、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も、国連の責任投資原則(PRI)に署名し、いよいよESG投資に注力するようになりました。ここではESG投資のための評価の定量化の動きも始まっており、今後国内ではますますESG投資は拡大していくと考えられています。
 
 ここまで横文字で説明してきましたが、そうは言っても基本は「発信型三方良し」で、そこにうまくはめ込んでいくことで、十分やっていけるのではないかと思っています。
・新グローバル時代
・企業の本業力
・発信

という3つのキーワードでお話してきましたが、この3点が的確に回されることで、共創やイノベーションが起こるのではないかと思います。
 今日のこのお話が、みなさんにとって何らかのインスピレーションをもたらしてくれるようなら幸いです。