大成建設のオープンイノベーション(TOI Lab.)

有識者講演集

サステナビリティ新時代の経営戦略

「発信型三方よし」で日本型CSV

 

笹谷秀光氏
伊藤園 常務執行役員 CSR推進部長

 

 
 経営環境が激動する今、レジリエントな企業に向けて、経営者はどのようなマインドを持つべきなのでしょうか。
“行動派”CSR役員として知られる伊藤園常務執行役員・CSR推進部長の笹谷秀光氏とともに、真の持続可能な経営について考えていきましょう。
CSR推進部長笹谷氏は、「新グローバル時代」「企業の本業力」「発信」という3つのキーワードで、伊藤園含めさまざまな実践事例を交えながら、これからの企業が取るべき方策を示唆しました。平易な表現による分かりやすい解説とともに、国連が宣言した「SDGs」(持続可能な開発目標)や、「ESG投資」(環境、社会貢献、ガバナンスに配慮した投資のあり方)など最新の動きについては、背景の理論も含めた詳しい解説も行っています。
 

新グローバル時代

 まずみなさんに考えてほしいのは、今時代が「新グローバル時代」に入っているということです。
例えばパリは、私が駐在した1981年当時は車だらけの排気ガスの多い町でした。しかし、現在は自転車シェアリングの「Vérib(ヴェリブ)」が主流となり、大変クリーンになった。この仕組みは世界に広がり、ニューヨークではシティバンクが協賛し、日本では富山市がパリ方式を直接移入してシェアサイクルを実施しています。東京では「ちよくる」が知られていますが、このシステムは通信企業大手が担当しているんですね。このように、企業が本業で環境問題や社会課題に取り組む枠組みができつつあるんです。
 
 それが「産官学金労言」です。
環境にもいい、景観にもいい。ユーザーも利用しやすい。都市の再生にもつながる。
しかし、1つの会社、1つのセクターだけでは実現できません。だからこそ、こうした多領域にまたがる仕組みが必要になるんです。産官学連携はよくありますが、金融が関与し、労働界の協力も必要。そして、良いことはどんどん発信しようという“言”。ここにNPO、NGOが入って連携すると、力のある枠組みになっていきます。ヴェリブは、IT、自転車などのハード面で企業が一塊になって参画し、効果実証・検証にはパリ大学が協力、パリ市、パリ市警が許可を出すために尽力した、産官学金労言の見本のようなものなんです。
 
 
 私はこういう仕組みのことを“プラットフォーム”を呼んでいます。このような活動基盤がなければ、共創を進めることはできないでしょう。
 
 

地方創生のキーターム

 富山市の例を少し詳しく見ていくと、高齢者の方がお孫さんと行くと博物館や美術館が無料になる「ジージもターダ」「バーバもターダ」という施策があります。
富山市は新交通の「ライトレール」を導入し、市街地活性化と健康寿命延伸のために高齢者の方の運賃を一律100円にするという交通施策をしており、孫と町に来てお土産を買うから経済が活性化はするし、高齢者は元気になるし、教育としても効果があるしと、一石で二鳥、三鳥、四鳥の意味がある複合政策になっています。
また、“花束の町”を展開しており、市が作成した素敵なポスターのように花束を持って乗ると運賃が無料になるキャンペーンなども展開しています。
 
 ここから分かるのは、まちづくりに大切なのは、「センス・オブ・プレイス」と「シビックプライド」の2点ではないかということです。
センス・オブ・プレイスとは、“あの街はこうだったな”と感じさせる街の個性のようなもので、シビックプライドとはその街への愛着と誇りのこと。この2つがあればまちおこしはうまくいくし、なければうまくいきません。逆に言えば、民間企業はこの2点に関する提案をすることが、今後の地方創生のキーになるのだと思います。

 

 
 もうひとつ事例として、日本遺産指定を受けた小浜市を挙げましょう。
これは広く食文化全体を含む「若狭のサバ街道」が認定されたもので、“小浜から世界へ”として、ミラノ万博では産業界ともども市を挙げて出展し、若狭塗り箸の体験ワークショップなども開催し、大変好評を博したそうです。
こうした活動は当然学校教育の現場でも出るでしょう。先生が生徒たちにミラノ万博の話をする、すると子どもたちは地元の食文化を理解し、ミラノはどこだろうと世界に目を向けるようにもなる。このように人を育てるということこそが、これからの時代のレガシーになるんです。
 このように伝統や文化を磨き上げてビジネスにしていくモデルは非常に参考になるでしょう。こういう良い取り組みには、民間もどんどん参入してきます。
JR西日本が新幹線の車内誌で取り上げ、ANAは日本の名品・産物を扱う「Taste of JAPAN」で小浜の小鯛笹漬けを扱っています。
これ、全部本業でやっていることにお気づきでしょうか。一昔前のようにどこかに寄付して、どうお金が使われているかは分かりませんではないんですね。本業でやってこそ企業の人気も高まるし、なるほどと思わせる力もあるんです。
 
  和食、和紙、富士山が世界文化遺産に登録され、2020年には東京でオリンピック・パラリンピックが開催されることを背景に、今、日本では「クールジャパン」をてこにしたインバウンドに注力しています。そして、五輪の後には「レガシー」を残す。こうしたことをバラバラに考えていてはいけません。政策課題は決まっています。地方を元気にしろ、人を呼び込め、そして五輪でレガシーを残せ、全部合わせて日本創生だ。現在はこういう状況なんです。2020年まで、うちの組織は、会社は何ができるか、どうなってるか。そういう意識で臨んでほしい。眠くなっている暇はありませんよ。
 インバウンドの目標は4000万人ですが、この数字が意味するところはおわかりでしょうか。今は2000万人ですが、いろいろな問題が起きています。北海道ではレンタカーを返すときに軽油を入れてしまう外国人がいます。日本独特の交通文化である踏切での一旦停止もあります。生命に関わる問題が起こるかもしれません。『テルマエ・ロマエ』どころの騒ぎじゃありません。
 逆に言えば、ちゃんとやらなければならない異文化対応が山ほどあるということであり、さらに言えば、ビジネスチャンスが山ほどあるということ。そういうことに頭を回せるかどうかで、今後差がついていくでしょう。2020年までに、日本人はそこが問われていると思います。