45

リスクの概念に基づく避難安全設計手法の開発

統計データに基づく設計許容避難リスクの算出

池畠 由華*1・野竹 宏彰*2・山口 純一*3・田中 哮義*4

Development of Evacuation Safety Design Method based on Risk Concept

Statistics-based Calculation of Acceptable Evacuation Risk for Evacuation Safety Design of Buildings

Yuka IKEHATA*1, Hiroaki NOTAKE*2, Jun'ichi YAMAGUCHI*3 and Takeyoshi TANAKA*4

研究の目的

現在の避難安全設計では,出火率に関わらず火災発生を前提として評価を行うため避難安全上危険性の低い小部屋の検証作業に時間を費やし,避難上重要な廊下や階段の設計が疎かになる可能性があります。また,排煙設備,防火シャッター等は作動信頼性に関わらず必ず効果的に作動すると仮定される一方で,スプリンクラー設備の効果は考慮されていない1つの火災シナリオで評価が行われています。このような背景に対して,出火後に拡大する放火以外の火災(成長火災)において煙に曝された死傷者を避難リスクと定義し,リスクの概念を導入することにより複数の火災シナリオを考慮でき,危険性の低い室をスクリーニング可能な避難安全設計手法の開発を行っています。本報では統計データを用いて算出した設計許容避難リスクを示します。この値を基準として設計時に評価を行うため,設計許容避難リスクは評価手法において重要です。

技術の説明

避難安全設計で利用するため,ぼやを除いた成長火災での避難リスクを対象としています。成長火災の出火率,成長火災1件あたりの死傷者数を10年間の統計データから算出し,上記に示す用途の現行法規下で要求されている避難リスクの水準を分析しました。これらの分析結果をもとに,設計時に基準とする設計許容避難リスクの設定方法を検討し,各用途の設計許容避難リスクの算出を行いました。

主な結論

統計データの分析により,成長火災の出火率は火気を扱う用途で高く,成長火災1件あたりの死傷者数は就寝系の用途で高いことが明らかになりました。これらの統計データを用いた避難リスクの算出により現行法規下での各用途の避難安全性の水準を明らかにし,建築物の床面積に応じた各用途の設計許容避難リスクの算出が可能となりました。

*1 技術センター 建築技術研究所 防災研究室
*2 清水建設(株)
*3 (株)大林組
*4 京都大学