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地震動ばらつきの相関が建物応答に及ぼす影響

坂本 成弘*1・高木 政美*1

Effect of Correlation of Ground Motions along the Period on Structural Responses

Shigehiro SAKAMOTO*1 and Masayoshi TAKAKI*1

研究の目的

建物を調査するデューデリジェンスや地震対策を決めるためのライフサイクルコスト評価,あるいは事業継続計画を策定するための建物機能の耐震性能評価などでは,地震によって生じる被害や損失がどの程度なのかを調べるために地震リスク評価が行われます。現在では,建設会社やコンサルタント会社など多くの評価機関が地震リスク評価を行っていますが,それぞれの評価機関が独自の評価手法によって評価しており,その評価精度は様々です。各機関とも評価精度をよくするために様々な改良をしていますが,ここでは他機関では行っていない新しい改良を提案します。

技術の説明

地震リスク評価の精度をよくするためには地震動の設定方法が重要な項目のひとつとなります。ここでは,想定する地震動の周期間相関を考慮する方法について検証しました。ここでいう周期間相関とは,ふたつの周期での地震動応答スペクトル振幅のばらつきの相関であり,スペクトルの波打ち具合を表す特性のひとつです。上のふたつの図は地震動の周期ごとの強さ(応答スペクトル)を表した図で,左図では実際に観測されたいくつかの地震動を重ね書きしています。実際の地震動ではこのように波打つような曲線になります。ところが,従来の多くの地震リスク評価では,右図の赤線曲線のような地震動を使っていました。実際の地震動と比べて平均化された平滑な曲線です。ここで実際の地震動に近い右図の黒線の地震動を使う方法を考案し,従来の赤線の地震動を使った場合と比較しました。その結果,従来の方法では地震による被害を過大評価してしまうことがわかりました。

主な結論

従来の地震リスク評価では,地震による被害や損失を過大評価してしまいますが,ここで提案した改良を加えることにより,より精度よく地震リスクを評価することができるようになりました。精度のよいリスク評価によってより効果的で適切な対策を決めることができるようになります。また,PMLなど建物の資産価値を決めるリスク値を過大評価することなく,適正な値を提示することができるようになります。

*1 技術センター 建築技術研究所 防災研究室