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ポリマーセメントモルタル(PCM)を用いた増打ち補強壁

水平加力実験

中村 敏治*1・谷口 俊恭*2・小室 努*2

Strengthening a Shear Wall using the Polymer Cement Mortar

Shear Strength Test

Toshiharu NAKAMURA*1, Toshiyasu TANIGUCHI*2 and Tsutomu KOMURO*2

研究の目的

2006年に「耐震改修促進法」が改正され,2015年までに住宅および特定建築物の耐震化率90%を目指していますが,公立の小中学校校舎・体育館以外の民間建物の耐震補強は遅々として進まない現状にあります。その主たる原因は,耐震補強工事に伴う振動・騒音・粉塵問題,工事の時間帯・期間の限定,工事費,動線計画や採光の阻害などと考えられます。これらを解決する工法の1つとして,動線計画や採光に支障をきたさない増打ち耐震補強を対象に,あと施工アンカー工事,型枠工事,コンクリート工事など大きな音の発生する工事を一切省いた増打ち耐震補強工法を提案・開発します。

技術の説明

工事に伴う騒音・振動を極力抑える工法として,あと施工アンカーの替わりに補強壁鉄筋端部を既存躯体へ接着する工法,型枠・コンクリート打設の替わりにポリマーセメントモルタル(PCM)を左官工事で塗付ける工法とします。補強壁鉄筋端部の既存躯体への接着は,鋼板に鉄筋を溶接あるいは摩擦圧接した金物を用い,鋼板をエポキシ樹脂系モルタルで既存躯体に接着し,鉄筋は補強壁鉄筋とPCM壁内で重ね継ぎ手とします。また,PCMを使用することにより,既存壁への目荒しを不要とします。これにより,使用しながらの耐震補強が可能です。

主な結論

PCMで増打ち補強した壁を対象に,鉄筋の接着部詳細(溝の有無),PCM壁の鉄筋量をパラメータとした水平加力実験により次のような知見を得ました。①既存壁とPCM壁間に目荒し等を施さなくても,両壁は最大耐力時まで一体として挙動すること,②PCM壁の壁筋を接着用金物を介して接着定着する方法は,せん断耐力の向上を目的とした有効な耐震補強工法であること,③本補強工法による塑性変形能力の向上は認められないこと,④接着面積を増やす目的で設けた接着定着部の溝の効果は認められないこと,⑤PCM増打ち補強壁の補強耐力は,一般評価式(荒川式)で安全側に評価できること。

*1 技術センター 建築技術開発部 建築生産技術開発室
*2 設計本部 構造グループ