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高濃度酸素水を利用した水質浄化システム

システムの概要と装置の設計

片倉 徳男*1・高山 百合子*1・上野 成三*2

Water Purification System Discharging Highly Oxygenated Water

Specifications and Design of the System

Norio KATAKURA, Yuriko TAKAYAMA and Seizo UENO

研究の目的

内湾や湖沼等の閉鎖性の水域は,水が循環しにくく水底にヘドロが堆積し易い環境です。このような環境では,特に水温が上昇する夏季に水中に溶け込む酸素が欠乏する「貧酸素」とよばれる現象が発生し,多くの生物が酸欠で死滅するため問題となっています。この現象を解決するために,水域に酸素を供給して水中の酸素量を増加させる方法が用いられています。酸素の供給方法には,水中で曝気を行う方法,揚水した水に曝気を行い再び底層付近に放水する方法,微細気泡を水流で底層付近に供給する方法などがあります。いずれも水中に酸素を直接供給する方法ですが,供給する酸素量に限界がありました。水域へ多量の酸素を供給すれば,より広範囲の貧酸素状態を改善して生物の死滅を抑制し,水質悪化を抑制することが可能となります。そこで,従来の方法とは異なり,高濃度の酸素を供給して水質を浄化することを目的とした新たな浄化システムを開発しました。

技術の説明

酸素の供給方法として,圧縮空気を貧酸素水に溶け込ました高濃度酸素水を用います。通常の2倍以上の酸素濃度がある高濃度酸素水を再び水中に放水して貧酸素化を抑制するとともに,生物によるヘドロの分解を促進して,水質の悪化防止と浄化を行います。

主な結論

高濃度酸素水を圧縮空気で製造するための最適な圧力や放水量等を検討し,毎分40リットルの高濃度酸素水を放水する試作機を製造しました。実海域で2ヶ月間にわたる試作機の連続稼動試験を行い,周辺より平均で約30%高い濃度の酸素を含む高濃度酸素水を放流することを確認しました。また,様々な大きさの水域に酸素を供給するために必要となる高濃度酸素水の放水量をシミュレーションで解析して,水域の面積と放流量の関係を明らかにし,毎分1m3の高濃度酸素水を放流する実用化装置の設計を完了しました。今後,貧酸素が問題となる閉鎖性水域での利用を目指しています。

*1 技術センター 土木技術研究所 水域・生物環境研究室
*2 国際支店 土木部 土木技術部